9月 132011
 

辞任会見をする呉世勲市長

無償給食によるソウル市の住民投票

    報告 : イ・チュンヒョン(立教大学経営学部3年生)

8月24日ソウル市では、小学校の無償給食と関連して住民投票が行われた。住民投票とは、地方自治体の重大な決定事項に関して、住民が直接参画できるようにと設けられた制度だ。住民に過大な負担を与えたり、影響を及ぼす地方自治体の重大な決定事項として、その地方自治体の条例を決めるとき、住民投票を行うことができるというものである。
今回の住民投票は、ソウル市小学校の給食を全面的に無償にするという議論をめぐって、吳世勳(オ・セフン)ソウル市長とソウル市議会、教育委員会間の意見の折り合いがつかず、結局ソウル市民に直接聞いてみようということで行われるようになったのである。

住民投票が行われた背景

無償給食をめぐる住民投票2010年に遡る。世界的な金融危機の中、競争の激化、失業率の上昇、そして貧富の格差のような問題を抱えていてそれがますます深刻化してきた韓国。いままで、競争を勝ち残って富を得ることしか関心がなかった人々が、狭き門をかいくぐらないといけないほどの激しい競争のせいか、だんだん中間層がなくなって広がっていく貧富の格差のせいか、従来関心をもっていた‘競争’や‘富’より‘福祉’に関心を示すようになった。そのような福祉への関心はまた社会的なセーフティネットに目を向かせるようになった。分配より成長を優先したあまり、脆弱な社会的なセーフティネットしかいない韓国に人々が福祉へ関心を持つようになったのは、もしかしたら必然的なことかも知れない。そして脆弱な社会的なセーフティネットに人々が不満を表したのが無償給食である。

“全面的に無償給食”を主張した郭魯炫(カク・ノヒョン)教育監とソウル市議会、それに反対した吳世勳ソウル市長

2010年、福祉への関心が高まった韓国では、民主党(野党)を中心にさまざまな福祉政策を掲げていた。その中で進歩派の郭魯炫教育監とソウル市議会のほとんどの議席を占めている野党の議員たちはソウル市の小学校の全面無償給食を主張した。しかし、 吳世勳ソウル市長を中心にするソウル市は、8%の無償給食の対象を30%拡大すると主張し、最大で下位50%までは無償給食を行うという代替案で対立した。そうして吳世勳ソウル市長と与党が強く反発するにもかかわらずソウル市議会は、2010年12月1日に来年度の予算案策定の中、無償給食化を議決して通過させた。
これに対し吳世勳ソウル市長と与党は、福祉ポピュリズムだと強く非難し、2011年1月18日にソウル市議会の無償給食条例案に無効を訴えた。無償給食に関する論議がますます大きくなって解決する兆しが見えなくなると、吳世勳市長は‘市民に直接聞いてみよう’と住民投票をソウル市議会に提案した。そして2011年6月16日にはソウル市議会へ無償給食住民投票の請求を提出したものである。そして、民主党の反発にもかかわらず、住民投票への吳世勳市長の強い意志で投票日は8月24日に決められた。

8月24日ソウル市住民投票の結果、そしてそのあと

8月24日、小学校の無償給食に関するソウル住民の投票が始まった。投票欄には2つの案があって、所得下位50%の学生を対象に2014年まで段階的に無償給食を実施する案と、所得と関係なくすべての学生に対し小学校は2011年から、中学生は2012年から無償給食を全面的に実施するという案が書かれていた。住民投票自体はソウル市民の33.3%を超えたときに、開票することになっている。もしそれに達していない場合には開票もできないまま、郭魯炫(カク・ノヒョン)教育監とソウル市議会が提案した無償給食の全面実施する条例案が通過することになる。

8月24日午後8時、住民の投票が終わってまもなく集計が始まった。結果は25.7%。開票基準の33.3%に達してない低い投票率であった。8月初旬、住民投票への関心を高めるために自分の職まで賭けていた吳世勳市長は、開票もできずソウル市長職を辞めざるを得なくなり、8月26日ソウル市長の辞任を発表した。結果はソウル市議会が主張したとおり、全面的無償給食の実施ということになった。これからソウル市内の小学校および中学校に通うすべての学生は無償で給食を食べることができるわけだ。

確かにそれは歓迎することである。しかし、本当にこれでよいのか。その過程において反省する点はないのか。そもそもこの論議は住民投票をするまでもないものではないだろうか。吳世勳市長と与党、そして郭魯炫教育監とソウル市議会がもっと意見を交換して妥協点を見つけていればという思いがし、残念な気持ちがする。もしそれができたら、住民投票が政治的な道具として利用されなかったのかもしれない。今回の住民投票は、それを無理やり敢行した吳世勳市長を主にした勢力、そして投票自体を悪い投票だと決め付けて投票拒否運動をした野党の両方とも反省する機会になってほしい。

最後に吳世勳市長が市長職を辞めて空席になった席は、10月26日にソウル市長再選によって決められる。