6月 282012
 

Hopemakers’ Seminar 『大都市ソウルにおける住宅の貧困問題 ―
「ソウル市都市貧民住居実態調査」を通して見えてきたソウルの現況と課題』報告
 
(2011年11月25日(金)19時~21時)

Hopemakers' Seminar 2011.11.15


開発や都市化・産業化により生まれたスラムなど貧困地域の居住権を守る運動は世界中でおこなわれていますが、韓国でも、再開発に伴う強制撤去や移転に反対する運動などがさまざまに取り組まれてきました。今回「住居権実現のための国民連合」や「ASIAN BRIDGE」などが、ソウルの貧困地域コミュニティの住環境の改善や社会福祉に取り組むために行った実態調査に委員長として参加した羅孝雨(ナ・ヒョウ)さんが来日されたのにあわせて、日本希望製作所のセミナーとしてお話をうかがう機会をつくりました。

初めに、ナ・ヒョウさんが現在行っている「善良なる旅行社」の活動のご紹介をいただいた後、ソウルの住宅に係わる貧困問題について報告をいただきました。

 現在、韓国の人口約5千万人うち、持ち家率は約55%となっています。持ち家率は、1970年代には70%以上あったものがこの40年で大きく減少しました。特にソウルでは持ち家率が44%と全国平均を下回っています。残りの非持家世帯(44%)のうち、最低住居基準を満たさない人が全体の約7~8%おり、地下や屋根裏、穴倉などの粗末な家に住んでいます。
 このような状況になってきた理由として、
 ①住宅が商品となり、投機の対象となっている。
 ②再開発時に地主・家主の権利のみを考え、住人の権利を考えていない。
 ③住宅に対し福祉的なアプローチをするといった政府の政策がない。
 の大きく3点あげられるといいます。

ソウルの貧困層の住宅で典型的なのはチョッパン(ドヤ)とビニールハウスです。中でもビニールハウスは、瑞草(ソチョ)区、江南(カンナム)区、松坡区(ソンパ)区といった漢江南岸にあるお金持ちが多く住む地域に沢山あり、調査によればソウル市内では38か所にのぼります。現在約2万人がチョッパンやビニールハウスに暮らしているそうです。
 ビニールハウスはもともと住宅建設に規制がある農地をブローカーが借り受け、農業施設として建てられますが、それを低い家賃(1万ウォン程度)で貧困な人々に転貸されます。世帯当たりの面積や1ハウス当たりの入居者は地域により様々だそうです。もちろん違法状態なので当局は撤去しようとしますが、実際に人が住んでしまうと行政も「ホームレスになるよりは」と黙認せざるを得ない状況が生まれます。ブローカーとしては、人が住むという既成事実を作るのが目的なので、家賃は非常に低くなっています。多くの場合、ビニールハウスが建つ地域は塀で覆われ、周りの人もそこが住宅であることに気づきません。しかし、冬になって火事がおこり(放火であることが多い)、初めて周辺の人もそこに住宅があることを知ることもあるそうです。やがて、その土地の値段は上がっていき、いつの間にか規制が外れ、マンションなどが建設されることになります。要は、貧困層を利用して規制外しと地上げを行っているようなものでしょう。
 ナ・ヒョウさんたちは、このような現状への対案を考えています。住宅を建てるには、土地・資材・労働力が必要ですが、ソウルのような大都会では土地を確保することが最も難しく、現在、ソウル市に対し土地を提供するよう協議しているところです。ここでも、先日の市長選の影響は大きく、以前は「ソウル市には空いている土地は全くない」という返事しかなかったのが、市長が変わったとたん「土地も空いているし、予算もある」という話になってきたとのこと。
 ナ・ヒョウさんは、コミュニティの中の貧困に大きな関心を持っており、いわゆる「住宅政策」として行政が住宅を用意して人々を住まわせるということでなく、コミュニティづくりの運動と関わって、貧困者自らが住宅を作っていく運動を模索しているそうです。
 報告後、参加者からの活発な質疑が続き、予定時間をオーバーして終了しました。

ソウルの貧困層の住宅問題について初めてお聞きすることが多かったので、非常に興味深いことばかりでしたが、基本的には東京の状況とかなり類似する面があるのではないかと思います。ヨーロッパ諸国などと比べ、韓国や日本では土地や建物は投機の対象であり、財産と見なされていて、福祉もしくは人権の観点は希薄です。現在、東京では農業用ビニールハウスに暮らす人はいないでしょうが、多くの公園や河川敷で段ボールとブルーシートで作った家に暮らす人がいます。どちらも、ある時は黙認され、またある時は撤去の危機にさらされるという面では共通するものがあるでしょう。
 ナ・ヒョウさんがコミュニティの観点から貧困問題に取り組んでいるというお話には非常に共感するものがあります。一方で、日本の貧困問題は、社会全体に広く散在しており、労働問題でも住宅問題でも、なかなか表面に出てこないのが実情です。多くの人が低い賃金や高い家賃に苦しんでいても、個としてバラバラの地域や住宅に住んでおり、その声を集め、要求し実現していくことは簡単ではありません。先日も新宿区のアパート火災で生活保護の高齢者が亡くなりましたが、貧困と孤立がワンセットになっているのが都市部の特徴であり、そこにいかにコミュニティを築いていけるかが大きな課題であると思います。

菊地謙(NPO法人日本希望製作所 理事/自由と生存の家実行委員会)

* ドキュメンタリー作家の早川由美子さんのブログに、ソウルの貧困層が住む地域を早川さんが実際に訪問された時のルポが詳しく掲載されていますので、こちらも合わせてご覧ください。