6月 282012
 

社会的企業と地域コミュニティの好循環を生み出す

 社会的企業の重要な意義は、従来の方法では解決しづらい課題を抱える領域や地域において、事業を継続・発展させることを通して、雇用を生みだすことである。逆に、地域社会において社会的企業が生まれ、成長することは、単なる一事業の有無だけではなく、地域社会が課題を共有し、つながり、ソーシャルキャピタルを豊かにしていく装置を持つことを意味する。

事業を生み出す起業は、これまで「いい起業家がいれば・・・」という考え方に陥りがちであった。「いい人材、やる気のある人がいないから、このまちでは事業が生まれない」と言われがちであった。しかし、どの地域にも、課題への問題意識、克服のための思いやアイデアを持つ人、それを実現するために必要な経験やノウハウを持つ人、活動を始めたい人、小さく始めている人は、顕在化しておらずとも少なからずいる。そのような起業の種や小さな芽が、根付き、成長し花を咲かせ、実になるためには、種や芽を培う豊かな土壌と、水や日光が必要である。いくら可能性のある種であっても土が枯れ、周りからの水や日光がなければ芽吹くことはないだろう。

その意味で、地域の社会的企業の誕生や成長には、事業を起こす社会起業家の資質以上に地域社会の力が大きな影響を与える。社会起業を育むには次の6つが充実したコミュニティが求められる。
① 地域にある「資源」の可能性を共に考え、利用できるよう提供・協力する人
② 事業が始まった時、顧客としてサービスや製品を利用し、利用した感想、良い点、悪い点を起業家にフィードバックしてくれる最初の「顧客」
③ 立ち上がったばかりの段階で、思いやビジョンに共感し、一緒に働いてくれる「仲間」
④ 事業の立ち上げや先行投資に協力してくれる「資金協力者」
⑤ 起業家が悩みを相談でき、壁にぶつかった時に励ましてくれる「メンター」的存在
⑥ 地域の行政、既存企業、地域外の似た事業体を紹介し、つないでくれる「コーディネーター」
 このようなサポートを地域の人たちがしてくれるなら、種や芽の人は積極的に事業への挑戦に手をあげることができる。また、やってみたいことがある人が、その地域に集まってくるようになる。

例えば、日本の長野県下諏訪市の御田町商店街「匠のまち あきないプロジェクト」では、空き店舗の多い商店街を職人、マイスターが集う工房街にするビジョンを掲げ、2003年から2010年で延べ21件の開業を実現した。これは、商店街のおかみさん会が中心となり、工芸品づくりなどで店を出したい人の開店の支援者、最初の顧客、近所の人への広報の担い手となり、メンバーが口コミ、訪問・交流を積極的に繰り返すことによって、店を出したい人が商店街に集まってきたからだ。

このように、「まちの起業がどんどん生まれるコミュニティ」をつくることは、単なる事業、雇用数という経済的効果のためだけでなく、人のつながりによる地域力、ソーシャルキャピタルを培うためにも大切な取り組みとなってくる。特に、脆弱層の多い地域、高齢化が進む地方都市、震災後の被災地の復興など、経済と社会の両面の危機を乗り越えるために不可欠なものである。

 では、どうすれば地域の人たちがつながり、社会的企業の立ち上げや発展に協力してくれるようなコミュニティができるのだろうか?
コミュニティづくりのキーポイントは「居場所」と「出番」にある。
「居場所」とは「ここでなら暮らしていける」という安心感だ。自分のことを知っている人がいる。お互いに気にかけあっていて、困った時に「助けて」と言える人がいる。そして、そのような関係を、これまでも持ってきたし、これからも持っていける。だから、ここに暮らすことは、他の場所にない安心感をもっていれるような場だ。
また、「出番」とは「ここでなら自分を活かせる」というやりがい、生きがいです。自分の意見を述べたら受け止めてくれる人がいる。お互いに困っていることも、できることも話し合っているから、自分が周りの人に役立つには、何をすればいいかがわかる。

例えば、イベントで受付をお願いしたいとしよう。「忙しくて人手が足りないから、あなたやって」というお願いをした時と、「あなたのような笑顔で事務を手際よくする人がいてくれたら、イベントは成功するだろう」というお願いをした時、お願いされた方にとっては、後者の方が何倍も力を発揮したくなる。自分に何ができるか、どのように役立つのか。それがわかった時、自分にとっての「出番」ができる。

関わる人の「居場所」と「出番」を設計し、伝えていくことができるコーディネーターの存在がいることが、地域で新しい活動や仕事を生み出すには不可欠だ。

かつてのコミュニティは血縁や地縁に基づく共同体にあった。しかし、近代化において、共同体の利益を個人の自由よりも重視する文化が、個人のメリットを抑圧していると捉えられ、共同体文化は否定されてきた。その結果、助け合うよりも、個々人がお金で問題を解決する文化が定着し、それが都市における格差、地方都市の疲弊の背景にはある。しかし、現代やこれからの社会において、かつてのムラ社会のような仕組みや文化、体制をつくる、つまり「昔に戻る」ことは有効ではない。個が主体として確立し、個々が自由に選ぶ権利を尊ぶ社会では、かつての共同体の文化には強い抵抗感がある。

つまり、これからの社会における「コミュニティ」は、確立された個を前提として、地域社会に暮らす人たちが共に課題を共有し、その克服のために力を持ち寄り、活動を生み出し、未来を拓く基盤となるような場を、新しくデザインする必要がある。そのような新しいつながりをつくり、人の暮らしの新しい安心感、新しい活躍の舞台をつくる装置として社会的企業が必要とされている。

このように地域の安心感、住民の意欲を引き出すためにも、地域に社会的企業が生まれ、成長するためにも「コミュニティ」を再構築することが重要になっている。下表1のように社会的企業とコミュニティは不可分な関係にある。

表1 社会的企業と地域コミュニティの相互作用
・ 地域の「人のつながり」を、事業化によって持続的な形にする
・ 事業への参加によって、地域の課題解決の担い手としての当事者意識を育む
・ 事業ニーズを考えることで「課題の現場」と 「アジェンダ」が明確になる
・ 事業の顧客・利用者の「潜在化している価値・可能性」に注目し、地域に具現する
・ 事業の「目標と成果」を通して、地域の目標と出すべき成果も明確に共有できる
・ 事業の発展プロセスの中で、「新しいつながり」が地域にどんどん生まれる

私たちエンパブリック(empublic)は、地域の起業力を高め、コミュニティを再構築していくために、「ソーシャル・キャピタル・ファシリテーター」の育成プログラムを開発・提供している。ソーシャル・キャピタル・ファシリテーターは、地域のゴール像をデザインし、ゴール実現へのステップと、各段階で必要となるプログラムを設計し、実施できる人材である。私たちは、コミュニティやプログラムのデザイン、ワークショップ実践のためのツールと活用ノウハウを提供し、実践をサポートしている。

社会的企業はコミュニティから生まれ、社会的企業が成長することはコミュニティを紡ぎ直す。その好循環を推進できる人材が増えることによって、安心して、元気に暮らせる地域が一つでも多く生まれることに貢献したいと考えている。

広石拓司(株式会社エンパブリック代表取締役/NPO法人日本希望製作所理事)