1月 312013
 

保坂展人世田谷区長との意見交換

1月14日から19日まで、ソウル特別市冠岳(クァナク)区の柳鍾珌(ユ・ジョンピル)区長が、区の職員とともに東京、横浜を視察で訪れました。冠岳区は、人口約53万の、ソウルの南西部に位置する地域で、古くから住民運動が盛んで、現在では名山といわれる冠岳山とソウル大学を始めとした大学が多い地域として知られています。

ユ・ジョンピル区長は、住民のための「知の福祉、知識の福祉」の充実を図るために、「歩いて10分の距離に図書館をつくる」ことを重要な政策として進めていますが、今回の視察では、「日本の図書館、住民参加のまちづくり、協働組合、社会的起業による雇用」等々をテーマとして、横浜市、関内フューチャーセンター、世田谷区、世田谷トラストまちづくり、杉並区図書館、明治大学和泉図書館、生活クラブ生協・東京、日本労働者協同組合連合会、国際子ども図書館などを訪問しました。

また、滞在中に立教大学において協働組合関係者と小規模な意見交換会を行いました。格差が進む現代社会の代案をどう模索するのか、多機能な図書館についての話など、冠岳区で進めている政策についてユ・ジョンピル区長は話されましたが、そのときの様子を明治大学政治経済学研究科修士2年の今井迪代さんが報告します。

杉並区立中央図書館で図書館事業、「杉並倶楽部」の説明を聞く


*****

1月17日、NPO法人日本希望製作所の桔川さんのご紹介で、韓国のソウル市冠岳区区長の柳鍾珌(ユ・ジョンピル)氏をはじめ、区の職員の方々の日本視察に伴って開催された、協同組合関係者との交流企画@立教大学に参加させていただきました。

日本視察全体を通しては、日本の各種協同組合や社会的企業との交流、更には明治大学に昨年新たにできた、和泉キャンパスの図書館見学などもなさっていたようです。

明治大学和泉キャンパス図書館前で


そして今回の交流会では、日本側から生協・農協・労協の各団体のリーダーと呼べるような方々や、今度、韓国の特集番組を制作するというメディアの方が参加され、大学にて意見交換を行った後、懇親会会場に場所を移してざっくばらんな交流をしました。

大学では、まず立教大学の原田先生から同大学の地域連携の取り組みについて紹介があった後、柳区長から冠岳区の昨今の取り組みについてお話がありました。

その柳区長、冒頭突然、「場が固いから…」と動画を披露。
「あだ名はジョブズです」と自己紹介した区職員(マニフェスト室長)のiPadで、区で実施した「本と生涯学習のフェスティバル」の宣伝の為に、大勢の区職員が本を片手に、ノリノリで踊っている動画をみせてくれました。

「読書・生涯学習の普及の為なら、区職員が踊ってもよいと思うのです」と区長。非常に気さくな方でした。2010年7月に区長に就任し、現在一期目、就任から約2年半が経過したところだそうです。

冠岳区では、「GNPからGNHへ」「知識の福祉の充足を」といったコンセプトを取り入れて、区内に新たに複数の図書館ないしは図書スペースを作り、市民の学びの場を広げているとのこと。その中で図書館は、本を読む場という意味だけでなく、就職相談の場や人びとの居場所にもなり得るなど、多面的な役割を果たすと捉えられていました。

図書館に力を入れたことで、実際に区に起きた変化としては、単なる「住宅街」というイメージから、「図書館の街」としてより良いイメージが広まっていったこと(メディアでもたびたび紹介されるようになったそうです)や、本を読む人が増えたことで、区全体でリベラルな思考を持つ人が増えていった、という状況を説明してくださいました。

関内フューチャーセンターで社会起業家のプレゼンを聞く


また図書館だけでなく、「社会的企業支援センター」(各社会的企業のオフィスの入ったインキュベーションセンターのようなもの)を設立し、社会的企業支援にも熱心に取り組まれているそうです。現在同区では、約30の社会的企業が活躍しており、これを50企業にまでに増やしていきたい、とのことでした。

もともと冠岳区は住民運動が盛んで、こういった新たな取り組みを受け入れる土壌があったとのこと。区長ご自身も、学生運動や社会運動の活動をされてきたとのことで、なるほど先駆的な取り組みができるわけです。日本で言えば世田谷区のような雰囲気かな、と日本側からの参加者は話しておられました。

ソウル大学を擁し、若者が多い冠岳区の人口は50万強ほど。区の図書館全体の利用者の4割も若者で、特に地下鉄の駅に併設された「無人図書館貸出サービス」がよく利用されているそうです。また各図書館の設立にあたっては、大企業からの資金提供も受けており、この区の取り組み自体がまるで社会的企業のようでした。

個人的には、区が先駆的な取り組みをするにあたって、区の職員はついてこられているのか、区の業務内での連携はとれているのか、といった点が気になり、気さくな雰囲気に甘えて率直に区長に伺わせていただきました。すると、「リーダーは皆の半歩先を行くのだ」とのご回答。つまり一歩先をいっても皆がついてこられないし、同じペースで歩いていても何も変わらない、と。

柳区長の、力強く且つ周囲への配慮を忘れないリーダーシップを感じました。また「想像力が大事」とも繰り返しおっしゃっていました。区長ご自身、本をよく読まれ、日本の村上春樹の小説もお好きだそうです。お土産として、日本からの参加者に冠岳区区庁舎が描かれた漆器の置時計と区長ご自身のご著書が手渡されました。

住民参加でつくられた「世田谷緑道」を散策


今回、冠岳区の皆さまは日本に視察としていらしたわけですが、日本としても冠岳区に学ぶ点が多くありそうです。

冠岳区ウェブサイトより (日本語版 http://japanese.gwanak.go.kr/)
『最も必要なことは人に投資することです。私は冠岳区を「図書館天国」とします。本は革新とアイデアの宝庫であり、図書館は知恵の灯台です。』

『皆様にお約束した「人間中心の冠岳特別区」は、区民の皆様に参加いただき、コミュニケーションしていただいて、可能になります。』

文: 今井迪代(明治大学大学院生)