4月 012013
 

くらしの安心・安全を求めて~「生活サポート生活協同組合・東京」の実践~

 現在、私は組合員数300人弱の生活サポート生活協同組合・東京(以下、生活サポート生協)という小さな生協の事務局を担当しています。この生活サポート生協は、パルシステム生活協同組合連合会(パルシステム連合会)と生活クラブ生活協同組合・東京(生活クラブ・東京)という異なる生協グループが組織を超えて協同し創設した、生活相談と教育・研修、情報提供だけが事業という日本では唯一の生協です。一般によく知られている購買(地域)生協や福祉・医療サービスを提供する生協と異なります。

1.生活サポート生協・東京はなぜ誕生したのか?

 生活サポート生協は多重債務者の生活を再生するための相談機関として2006年に東京都から認可されました。
 日本では第二次世界大戦後の1961年に池田内閣が所得倍増計画を謳い、高度経済成長政策へと舵を切りました。それと並行して戦後のベビーブーマーの成長、結婚、子育てが消費経済に大きな影響を与えるとともに、大量生産大量消費時代へ日本社会が大きく変貌しました。庶民が耐久消費財を分割払いで購入し、現金買いからクレジットカードによる信用買いが普及したのもこの60年あまりの出来事です。国民のお金に対する感覚が急速に変化し、無担保で個人へお金を貸す消費者金融市場が肥大化して行きました。1970年後半から80年初頭、いわゆる「サラ金」の高金利、過酷な取り立てによる自殺など社会問題化しましたが、1991年のバブル崩壊後の経済状態の中で消費者金融事業者の無人契約機が市中へ設置され、おしゃれなコマーシャルがテレビのゴールデンタイムに登場するなど気軽に利用できるイメージが強調されました。その結果多重債務となる消費者被害が再び非常に大きな社会問題となりました。パルシステム連合会と生活クラブ・東京の関係者と有識者が集って多重債務者の問題について話し合い、その生活の立て直しを支援する非営利型の生活資金融資組織-信用生協を創ろうということになりました。

 当時、多重債務に陥る人は「借金をしてでもギャンブルなどを止められない人」「本人に問題がある」というのが、世間一般の見方でした。両生協の組合員も同じような見方をしており、多重債務者の生活再生とそのための生活資金を融資する組織を作るための賛同を得るのは難しいものでした。しかし、それぞれの生協で利用代金の滞納問題が表面化したことから、一般にアッパーミドル層と言われた生協組合員にも多重債務者が存在することが明らかになりました。また、そうした多重債務に陥るきっかけは、失業、急病、事故、災害など突然の出来事で生活費が急に不足して仕方なく消費者金融を利用したものの返済できず、返済するためにまた借金を重ね、雪だるま式に借金が膨れ、多重債務に苦しむという方が実は多く、低利で生活資金を融資しながら、生活を立て直すために継続的に相談にのる組織が必要だと理解されるようになりました。当初めざした信用生協に関しては行政認可が下りなかったので、相談を受ける生活サポート生協と、融資をする有限責任中間法人生活サポート基金(現在は一般社団法人、以下サポート基金)という2つの組織に分けて設立されました。労働組合などの団体に属さない個人が多重債務になった場合、生活を立て直すための生活資金を低利で融資してくれる民間(協同)組織は岩手県消費者信用生協(現在、消費者信用生協)くらいしかなく、九州が中心のグリーンコープ生協グループと、首都圏中心のパルシステム生協グループおよび生活クラブ生協グループは岩手県消費者信用生協に学んで非営利協同型の生活資金融資組織を設立しました。

 そのような経緯で誕生した生活サポート生協は出資者である組合員と利用者である相談者は一致しません。組合員の大多数は設立主旨に賛同した支援者の色合いが濃く、組合員として出資し、その事業を利用し、運営にも参加するということが原則の日本の生協法には馴染みにくいものです。生活サポート生協は、「社会にとって必要だから創設しよう」という生協人の熱意が生みだした生協であると言えるでしょう。

2.生活サポート生協・東京の相談実績

 その後東京都多重債務者生活再生事業をサポート基金が受託し、東京都の指導によりサポート基金が相談も融資も行うことになりました。生活サポート生協はその存続をめぐって一年間議論され、パルシステム連合会が全面的に支援を決定し今に至っています。

 パルシステム連合会では「くらしの相談ダイヤル」として生活サポート生協の相談事業をリニューアルすると同時に、当生協を広く一般に役立つ組織として位置づけたので、相談は無料でどこからでも受け付けています。

 下記が相談件数の推移です。(2007年~2009年8月までは、パルシステム連合会内で行われていた消費生活相談の件数で、現在6年分の相談データの蓄積があります。)

 表―1 相談件数の推移
パルシステム組合員と職員からの相談が全体の約77%(2013年)で、その他は反貧困ネットワークとNPO法人自殺対策支援センターライフリンクが一緒に製作した冊子「困った時の相談先一覧」に掲載されたため、社会的弱者からの相談電話が入ります。この相談は、①失業・生活保護など生活困窮、②精神的な病、③①あるいは、①と②に絡む孤立・無縁に大別できます。

 2008年10月のリーマンショック後、特に2009年は多重債務相談が多くありました。比較的ゆとりがあるといわれているパルシステム生協組合員の家庭でも給与カット、ボーナスカットにより、住宅ローンが支払えない、子どもの教育資金が出ない、どうしたらよいかという相談が相次ぎました。

 生活相談には経済や社会変化がいち早く表れる、社会のセンサーとしての機能があります。2008年年末から2009年初頭にかけて年越し派遣村が開設されて、日本の中にある貧困問題が顕在化しましたが、当生協では既に2007年時点で組合員から派遣切りの相談電話を受けていました。これまでとは異なると感じる相談電話が入った時に感度良く傾聴し、課題化できる力をもつことが相談機関として重要ではないかと感じます。

 当生協の大きな特徴は消費生活関連法の狭間にある相談が多く、契約関係がないところでの精神的虐待やギャンブル・アルコールなどの依存症、家族や近隣関係における諸問題が群を抜いて多いことです。相談者の相談内容を丁寧に傾聴していくと、冠婚葬祭や近所とのお付き合い、また子育てに関する悩みの奥に、非常に難しい要素が複数含まれていることが多く、主訴で相談を分類する他に独自のキーワードを設定し、そのキーワードはマルチに付与して傾向を読み取り、分析することにしています。

 現在、独自キーワードは「多重債務・ローン」「貧困」「依存的・精神不安定(明らかな病歴も含む)」「DV・家庭崩壊」「人間関係」「家計管理」「孤立・無縁」「相続」「高齢者」としています。その中でも「人間関係」に関する相談が飛びぬけて多いことがわかります(図-1)。「人間関係」は、近隣・職場・家族などさまざまですが、とりわけ家族が絡むことが多くあります。家族間や隣近所との悩みに関しては、居住地の行政相談窓口には相談しにくい、身内、“隣のおばさん”“近所のご長老”などの相談相手はいないという、特に首都圏における地域コミュニティの崩壊や人間関係の希薄さを表しているとも言えます。

 図-1 独自キーワード マルチ付与 年度別推移
①多重債務・ローン

②貧困

③依存的・精神不安定

④庭崩壊・DV

⑤人間関係

⑥家計管理

⑦孤立・無縁

⑧相続

⑨高齢者

3.くらしの底が抜けはじめた・・・

 先にも触れましたが、くらしと直結している相談には社会のあり様がそのまま反映します。2008年1月の「パルシステム組合員のくらしの変化アンケート」調査では、組合員の平均年収は710万円を超していましたが、図‐1にあるようにリーマンショック後の2009年に多重債務・ローンと家計管理に関する相談が急増しました。これを境にして、比較的生活にゆとりがある中流層が多いという一般的な評価があった(パルシステム)生協組合員からの相談の様相が変化してきました。

 リーマンショック後の社会の激変の中で、右肩上がりの時代には“どうにかなっていた”人々の生活の底が抜け始め、“どうにもならなくなってきた”のです。
 リーマンショック後の2009年が相談に中間層の生活変化や生活苦が表面化し、一つのメルクマールでしたが、2012年度の相談はまた一つのメルクマールになるのではないかと感じます。2011年度以降徐々にではありますが、「貧困」「生活保護」に直結する相談が増えました。2007年に発足した反貧困ネットワークは生活困窮者の支援を行なう団体に所属する活動家で構成されており、それぞれの現場の実態から「貧困の連鎖」に関して当初から警告を発していました。生協ではどちらかと言えば、社会貢献的な意味合いで理解されてきたと言えます。しかし、2009年度の直接的な窮状を訴える相談から、貧困が連鎖していくのではないかと思われるパルシステム組合員からの相談が相次いでいます。

 湯浅誠氏が著書『反貧困』の中で「日本はすべり台社会」と評していますが、「貧困とはとりあえず縁がない」と考えていた層にも、複数の要因が重なった時にどん底の生活に陥る様相がはっきりしてきました。東日本大震災後は精神的な不安も訴える、また、精神的な病ではないかと思われる相談も顕著になっています。

4.生活の協同、相互扶助の仕組みづくり

 「くらしの相談ダイヤル」で寄せられる相談を大分類すると、以下のようになります。
①社会経済状況を主な要因とする生活困窮
②精神障害、高齢、病、介護、育児を主な要因とする日常生活の差し障り
③基礎的・基本的な生活能力の不足による日常生活の維持困難

①はグローバリゼーションによる社会変化に対応できず、また現在の日本の社会制度では支えられない人々からの深刻な相談、②は超少子高齢社会、人口減少社会になった日本でさまざまな環境整備が追いつかないことに多くの要因がある相談、③は個人の生育環境や時代背景などに大きな要因があり、個人差が非常に大きく、ほんの小さなきっかけで生活が瓦解してしまう可能性がある相談です。

 どれも自己責任として整理するだけでは問題が解決しません。「社会的に弱い立場の人が生きやすい社会が誰にとっても生きやすい社会」になるのではないでしょうか。また、相談を受けるだけでは、その相談のもつ根本な課題を解決することも不可能です。問題を解決するためには、さまざまな分野、人が連携する必要があります。特に東日本大震災後2年、当地の失業、生活苦、精神的な不安など多くの問題が明らかになり、被災地で起こっていることも要因となって首都圏でも生活苦が深刻な問題になっています。公助である社会保障が細り、自助では限界がある中で、共助の仕組みづくりが望まれています。

 生協の原点は相互扶助、共通の目的は「人間らしいくらしの創造」です。

パルシステムグループは130万人。地方自治法の政令指定都市として独自の政令を定める事ができる大きさです。生活サポート生協自身は本当に小さな生協ですが、その後背にパルシステムと生活クラブという生協の支援と分厚い資源があります。この小さい生協が持つ経済・社会生活のセンサーとしての役割を活かし、組織・経営基盤のしっかりとした大きな生協や機動力のあるNPOなどと有機的、ハイブリッドに連携する結節点として共助の領域の拡大に貢献できると考えます。

 韓国では既に協同組合基本法が制定され、その中に社会的協同組合も位置づけられました。IMF通貨危機以降の韓国の状況と、とりわけ東日本大震災後の日本の現状は似通っていると言われます。多重債務問題を解決したいという意図で設立された生活サポート生協は、奇しくも社会的協同組合のような存在です。相談を総合的な生活支援の目線で受け、協働のネットワークを通して解決に導く、パルシステム連合会と生活クラブ生協・東京が生んだこの小さな生協は日本の生協形態としては非常にユニークな存在でもあります。是非皆様のくらしの安心・安全に活用いただきたいと考えています。

<NPO法人日本希望製作所 監事 志波早苗>