5月 252013
 

光州のまなざしと痛みへの共感

「光州の5月を歩こう」という、便利な地図つきの小冊子をもらった。光州の町を「人権の道」、「民衆の道」、「意向の道」、「芸術の道」、「南道の道」とそれぞれにテーマを掲げて、1980年そしてそれ以降の民主化運動の記憶を、誰もが自分の足でたどり、追体験・追慕することができるような、ポケットに入れて歩けるようなサイズの案内書だ。韓国語版は一番詳しいが、日本語版も充実している。これが無料配布されている。光州5.18を風化・歪曲させないという光州市民の、強い思いをひしひしと感じる、多くの物、事柄のひとつだ。市民をあげて光州という町全体が、5.18の記憶を強い痛みと悲しみをもって、語り継いでいるという圧倒的な印象をうけた。

2013年は、光州5.18の33周年にあたり、この1月に就任した朴槿恵大統領が出席する国家行事である、「5.18民主化運動記念式」では、有名な「あなたのための行進曲」(임을 위한 행진곡)の斉唱を行わず、最後に合唱団が簡単にうたうことでしのぎ、式典の所要時間が30分程度に非常に短いものであった。これによっても5.18や民主化運動についての現政権の姿勢がうかがいしれる。

この式典に参加したツアー3日目に先立ち、1日目である5月16日夜には、光州NGOセンターの重鎮が、夕食交流会に招待してくれた。1980年当時に市民軍として戦った人々、またそばで応援をした人々などが、その当時の様子や現在の気持ちなどを語ってくれて、はじめて光州を訪れた私には、5.18が具体的な実感をもって感じられはじめた瞬間だった。

ツアー2日目の午前中には、世界人権都市フォーラムのセッションの一部を傍聴した。光州は独自に人権宣言をまとめそれを普及させようとしており、人権状況をはかる指標策定においても具体的な仕事をしている。そしてそれを世界的にもひろめるべく、検討委員会を開催したり、またアジア各国の人権状況の分析をおこなうフォーラムも開催していて、5.18が単に過去の記憶ではなく、現在そして未来にむけて社会を構築する基礎として、認識されていることを知った。

昼食をわざわざともにしてくださり、5.18の重要な舞台である全南大学を案内してくださった羅看采(ナ・ガンチェ)教授は、次のような話をしてくださった。1980年5月は光州抗争の第一段階、そしてその後に続く民主化が実現した1997年にいたる長い日々が第二段階であり、光州5.18は「勝利の抗争」であるということを強調されたことは印象的だった。全南大学の「歴史館」の展示は、闘いにかかわった一人一人の遺品展示や説明などが丁寧になされていて、心が痛み動かされる展示・映像だった。

錦南路では道路上で、昼間は各団体がイベントを開催していたが、その中にはおにぎりをにぎって市民軍に提供し支えたことを追慕するためのテントもあり、女性の国会議員なども静かに一つ一つおにぎりをにぎり、通りを行く人々に手わたしていた。突然ある団体の女性スタッフが、「1980年当時に光州に住んでいましたか?」とわたしに声をかけてきた。その当時の証言などをまだ集めているようだったが、今回のツアー運営にかかわった「善良な旅行社」スタッフの一人、キム・ヨンジ(김영지)さんも、その当時光州市内に家族と住んでいた小学5年生だった。子供の目からみた様子をきかせてもらったが、彼女は恐怖のあまりその当時約1年間の記憶がなくなっているというのである。実際に戦闘に参加した人たちだけではなく、子供たちに記憶を一部失わせるほどのトラウマを、多くの人がまだかかえているのである。日本希望製作所の韓国語講座の講師、文珍瑛(ムン・チニョン)先生から聞いた話では、当時のトラウマから家庭内暴力の問題などにもつながるケースがあることをきいた。

  光州の人々が、共通の痛みの記憶として、光州5.18をうけとめている。その痛みの深さに強烈な印象をうけた。 ふだんはきっと楽しい先生といった印象の羅看采教授が、光州抗争の話となると目を大きくひらき燃えるようなまなざしで話されていることが印象的だった。そのまなざしは、燃えたぎるように熱く、圧倒的なものなのだ。その深いまなざしに接して、光州5.18が現在進行中であるたたかいの、出発点であるという羅看采教授のお話がわかったような気がした。

全南大学正門前にて羅看采教授と


また、夜の飲み会にきてくださった、活動家で市民生活環境会議理事長の金江烈(キム・ガンヨル)さんは、私にとっては、また光州の痛みと悲しみと癒しを代表するような人物だった。心に深く刻まれた痛みと悲しみの歴史が、金江烈さんの言葉の一つ一つから、実感として伝わってきたのである。金江烈さんが、これまでのふみつけられた歴史をすべてパンソリの唄に書いたと聞かされた時には、一瞬たじろいだが、私ははじめてその痛みに共感するすべや道筋を一つ示してもらった気がして、涙がでそうだった。このパンソリは、一日8時間ほど上演しても、一ヶ月かかるほどの長さになるといっていたが、これを実際に是非聞いてみたい。

短い時間内に、これだけ充実したプログラムを準備してくださった、日本希望製作所の桔川純子さん、島村直子さん、木下ひろみさんに、心からお礼をもうしあげたい。韓国の市民運動の要となる人々との協力関係を大事にしている、日本希望製作所主催のスタディ・ツアーならでの、貴重な機会を与えられた。また韓国でも光州NGOセンターのソ・ジョンフンセンター長をはじめとする各NGOの代表者の方々、羅看采教授、そのほか多数の方々、そして善良な旅行社の代表のナ・ヒョウさん、キム・ヨンジさん、コン・ダヨンさん、そして、楽しく充実した時間をともにしてくださった参加者のメンバーのみなさんにも感謝もうしあげたい。

文: 黒川妙子 <国際識字文化センター(ICLC)>

この記事の韓国語訳はこちら

【ツアー日程】
5月16日 
-光州NGOセンターと交流会 (参加者は日本希望製作所に関連した11名。韓国側は約10名。)
5月17日 
-世界人権都市フォーラム参加 (分科会)
-羅看采教授のお話 (全南大学社会学部教授 5.18研究所前所長)
-金大中コンベンションセンター駅の展示見学(人権都市構想)
-全南大学 正門、大学歴史館見学、 錦南路でのイベント見学
-キム・ヨンジ(김영지)さんの幼少時の記憶について
-前夜祭
-光州NGOセンター関係者との飲み会
5月18日 
-第33回周年 5.18民主化運動記念式 に参加
-光州市東区招待昼食

参考:
「あなたのための行進曲」(임을 위한 행진곡)について
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/14730.html