8月 272015
 

wing3つの原則
痕跡を残さない
約束をきちんと守る
言い訳しない     (「W-ing 共同体の倫理」より)

「社会福祉法人W-ing」の事務室には、このような共同体における三つの原則が貼ってある。W-ingのチェ・ジョンウン代表と出会ってかれこれ約10年になるが、この原則はぶれることなく守られ、W-ingを訪れる度に、着実にその歩みを前に進めているのだということを確認してきたのだと思う。

最初、チェ・ジョンウン代表に出会った時は、「社会的企業」の認証を取るべきかどうか迷っていた。その後、結局、「社会的企業」になる道は選択しなかったので、その理由を尋ねたところ、取り組んでいる事業の内容から、「匿名性」を大切にするということと、認証され、当面の支援を受けることはできるかもしれないが、その分縛りも多く、また持続可能性という点で、「社会的企業」が必ずしも有効ではないと思ったからだという。

W-ingは、現在、社会福祉法人として、売買春や暴力の被害にあった女性たちや、家庭内でのさまざまな事情から家出をしたり、援助交際などの道にはまってしまった少女たちの支援に取り組んでいる。W-ingの「福祉」に対するスタンスは、非常に「積極的」だ。一方的な支援による「福祉」は、レッテル張り、ひいては「烙印を押す」ということにつながり、当事者から生きる力を剥ぎとってしまう危険があるというのだ。

W-ingでは、「仕事」にこだわり、仕事をすることによって女性たちが自立し、一人の人としての尊厳を取り戻していくための支援に徹している。

W-ingが運営するカフェ

W-ingが運営するカフェ

具体的には、下記のように3つの事業が中心になっている。
1)仕事の提供
① カフェ、どんぶりを看板メニューとした飲食店の運営
② 草木染めのスカーフ、エコたわしの製造販売。ネット通販の運営
2)働く女性のための住居権の担保:住宅困難の女性に対する住宅支援
3)生活の質を高める学びの提供:人文学講座アカデミーの運営

数年前にカフェを訪れたとき、十代の女性が二人で週一回行われている「人文学アカデミー」の宿題をしていた。どんなことを勉強しているのかと尋ねたところ、ニーチェについてだという。講義を聞いて、自分が考えることを感想文として提出するのが宿題だという。ずいぶん難しいことをしているので、驚いたが、彼女たちは、私がいた2時間ぐらいの間、ずっと黙々と本を読んだり文章を書いたりしていた。チェ・ジョンウン代表によると、何時間かの間、机の前にずっと座っているという経験のない彼女たちにとって、その経験はとても大切なのだという。この作業を繰り返していくと、「机の前に座る」身体(からだ)がつくられていくという。

wingcafeartW-ingの前身は、1953年に設立された「テレサ母子院」だ。1950年の朝鮮戦争によって生まれた多くの孤児の保護や、地方から職を求めてソウルに押し寄せた少女たちを、売春行為から守るためだ。そして、2007年に「W-ing」となり現在にいたるまで、一貫して「経済的自立」を促すための職業訓練や、人間としての成長を促す「学び」を組織のなかで続けてきた。

次回は、歴史を追いながら、「W-ing」が果たしてきた役割について紹介したい。(桔川純子)