10月 282015
 

サイ(PSY)とテイクアウト ドローイングの争い、ソンミサンでも?

「ジェントリフィケーション(Gentrification)」とは、旧都心部が賑わうことによって家賃が上がり、もともとの住民が追い出される現象をいう。1964年、イギリスの社会学者、ルース・グラスが最初に使用した概念だ。「ジェントリー」は紳士階級から派生した言葉である。韓国国内では2000年初め、ソウルの弘大前(ホンデアプ)、三清洞(サムチョンドン)、北村(プクチョン)で起こった。現在は西村(ソチョン)地域、漢南洞(ハンナムドン)、経理団通り(キョンニダンキル)、城山洞(ソンサンドン)、ソンミサン・マウル(マウル=韓国語でまち、村の意味)、城北洞(ソンプクドン)などに広がりつつある。

都市のマウル共同体作りから10年、ソンミサン・マウルを脅かすもの

本当に突然の出来事だった。個人としては、世の中の見方にまで大きな影響をこうむった。誰が思っただろうか?自分の作り上げたものによって、自分が苦しめられることになるなんて。

コミュニティ・カフェ「チャグンナム(小さな木)」が入っている建物(ソウル市麻浦区城山洞)が、2012年から売りに出された。建物の所有者が希望する坪あたり2500万ウォンという価格は、実に法外なものに思われた。当時の周辺の相場では、坪あたり2000万ウォンを超えるのは難しかったからだ。建物は簡単には買い手が付かなかった。

だが、いつかは建物が売却されると思い、それならば私たちが直接買い入れようかとも考えた。そんななか、近隣に建物を買いたいという人が現れ、2014年初め、所有者に売却するつもりがあるかを尋ねた。「チャグンナム」はソンミサン・マウルになくてはならない大切な場所で、無理をしてでも守りたかったのだ。そのとき所有者は何を思ったのか、すぐには売る気はないから、安心して商売するようにと言った。あとで気持ちが変わるようなことがあったら、連絡をしてほしいと伝えたところ、2014年6月、所有者から建物の売却を言い渡された。ひどく突然の出来事だった。新たな所有者は、2015年7月9日まで入居期間と認めるので、これまでと同じ入居条件で1年営業し、その後明け渡して移転するようにと通知してきた。

周辺の賃貸条件と現在の「チャグンナム」の条件を比べてみると、家賃が大幅に上がっていて移転は難しい状況だった。月極の家賃は約2倍以上に高騰し、権利金も上がっていた。もともとここは商圏が発達した地域ではない。そんな場所にマウル企業が一つ、二つと定着し始め、ソンミサン・マウルの主要な活動が行われるうちに、他のいくつかの業種もなんとかやっていけるだけの場所へと変わったのだ。
「チャグンナム」が現在のようなコミュニティ・カフェとして運営されて8年が経つ。マウル共同体の分野では、マウル企業のモデルとされている。2012年の協同組合基本法制定以前から、カフェは200人あまりの組合員の出資金によって設立、運営されてきた。コミュニティ・カフェとして、利益が残らなくても子どもたちのための有機農アイスクリームを販売し、大小さまざまなマウルの文化行事の場、会議室、連絡所、そして物品の預かり場所と、まさにマウルの広間の役割をしっかりと務めてきたのである。それが、一度も会ったことのない見知らぬ人が建物を所有することになり、8年間マウルの人々が記憶と思い出を刻んできた場所は、一瞬にして消える危機にさらされたのだ。

コミュニティ・カフェ「チャグンナム」はこの8年間、マウル住民の記憶と思い出が刻まれた「広間」だった。ある日突然建物の所有者が変わって、一瞬にして消える危機にさらされた。所有者は、不動産価格上昇で転売利益が生じることだけを期待するためだ。 ⓒソンミサンマウル

コミュニティ・カフェ「チャグンナム」はこの8年間、マウル住民の記憶と思い出が刻まれた「広間」だった。ある日突然建物の所有者が変わって、一瞬にして消える危機にさらされた。所有者は、不動産価格上昇で転売利益が生じることだけを期待するためだ。 ⓒソンミサンマウル

賃借人、全国すべての零細企業共通の問題

どうしたらいいだろうか。まずは立ち向かうことにした。法だろうが何だろうが、この状況は人間の生きる根幹である倫理に反しているからだ。不動産を所有していなければ、どんなことをしてもだめだというのと同じである。私たちの活動が生み出した結果は、自分たちの手で守るのだという意志の表明だった。

2015年7月9日が賃貸契約満了日であり、カフェを立ち退かなければならない日だった。この月、対策委員会を立ち上げて記者会見を行った。そして、周辺の商店を回って署名を集めた。賃貸借保護法で権利金が合法化されたので、そのこともあわせて伝えることにした。驚いたことに大部分の商店が高い関心を寄せ、賛同してくれた。せっかくなので、もう少し強く動くことにした。ソウル市賃貸借調停委員会に調停を申し立てたのだ。何回か調停委員会が開かれ、賃貸期間は2年ほど延長される見込みだ。2015年8月末現在、まだ協議中である。

その間に「安心して商売をしたい商売人の集い(マムサンモ)」にも加入し、零細の商店主同士で連帯することにした。これはソンミサン・マウルだけの問題ではなく、全国のすべての零細商店主に共通の問題だった。マウル共同体であれ路地裏商圏(小規模商店街)であれ、そうではなく「ホット・プレイス」とされる、いわゆる「注目商圏」であれ、商売をしている店の大部分は賃借りだ。自己所有物件で事業を営む人間は、すでに零細商店主の枠から外れている。

歌手・PSY(サイ)とテイクアウトドローイングカフェ

零細商店主がまったく同じ立場に立たされていることは、漢南洞の「テイクアウトドローイング」カフェの事例をみればよくわかる。それこそ、輪をかけて残酷物語だ。その場所は歌手・PSY(サイ)所有の建物として有名になった。もともとは商売が軌道に乗りづらい場所だった。アーティストたちが、その芸術的な感性(美術館であり、ブックショップであり、アーティストのアトリエであり、展示空間でもある場所)で店を整え、熱心に活動したことによって漢南洞(ハンナムドン)の名所となったのである。映画「建築学概論」に登場したことで、さらに名前が知られることになった。そうした経過のなかで建物の所有者が数回替わった。そして、最初の契約相手である、それなりに「良心的な」所有者と交わした「賃借人が望めば毎年契約を延長することができる」という契約内容は反故にされてしまった。ちなみに当時の所有者は日本人だった。日本は借家人の権利を無制限に保障する国である。このことは後に裁判所でも認められなかった。開いた口が塞がらない。

最後の所有者であるPSY(サイ)は、外国にいて多忙のためか直接表には出てこず、実績づくりに過剰な意欲を持つ弁護士が、法に基づいて着々と業務(?)を進めている。明け渡しに関連した訴訟が続いた。当初はPSY側が有利だったが、些細なミス(裁判呼び出しの公文をとんでもないところに送付し、賃借人の知らないうちに話を進めたこと)によって賃借人に有利な判決が出た。そうなると、PSY(サイ)側が無理押しを始めた。人を雇うに至ったのだ。当然暴力沙汰になり、負傷者が出ることにもなった。世論が悪化すると、PSYの所属事務所であるYGエンターテイメントのヤン・ヒョンソク代表が仲裁に乗り出した。1か月の交渉の末、両者は合意に達した。事態は収束したかに見えたが、その後もさまざまな告発があり、最近まで続いている。

法理的に正しいかどうかはともかくとして、韓国社会は強固な「地代資本主義」社会であることをつくづく実感する。個人所有を名目にして地主には寛大、商圏を形成した権利には苛酷なのだ。同じ所有でありながら、所有の内容と方式に差を設けている。地主は不動産所有に対する正当な地代を受け取ればいい。商圏が形成され、商売がうまくいくようになったのは、ひとえに商店主たちの成果だ。したがって、商店主たちがその場所で長く商売ができるようにするべきであり、そのことは韓国以外の国では十分に保障されている。韓国では、その商売をできる権利がほとんど認められていない。それが問題なのだ。すべてが不動産所有者に帰属するようになっているのである。

「ジェントリフィケーション」!これはある理由によって不動産価格が上昇する現象をいう。「チャグンナム」や「テイクアウトドローイング」のケースのように、新たな建物所有者が高値で不動産を購入するのも、地価上昇による転売差益を見込んでいるからだ。すべての問題の根っこに、不動産価格の上昇で生じる転売差益がある。

持続可能発展区域、城東区 地域共同体に芽生える

ソウル城東(ソンドン)区では、この問題に対応するための条例を定めた。「城東区 地域共同体相互協力および持続可能発展区域指定に関する条例」がそれだ。核となるのは、特定地域の持続可能な発展のため、建物の所有者が賃貸期間を最大限長くしたり、賃貸料の大幅引き上げをしないなどの「自律相生協約」を引き出すことだ。条例の内容や方式はもう少し複雑なのだが、地域商圏の状況にそぐわないかたちで賃貸料が急上昇する問題を防ごうとするものである。もちろん限界はある。上位法が存在しないことだ。しかし法や制度を変える難しさを考えれば、ささやかな突破口が開けたとみるべきだろう。

中世には封建領主と地主が土地を所有していた。当時でいうと、いわゆる「商人」にあたる新興ブルジョワジーは土地を持っていなかった。地代は事業の利潤を損なう大きな要素である。これが、18世紀ブルジョワジーが革命的だった理由だ。今日、資本家たちはこの地代と利潤が衝突する問題を実にすっきりと解決した。自分で土地を所有してしまうのである。中規模、大規模資本はすべて不動産を所有している。事業で金を稼いだら真っ先にするのが建物の購入だ。今日、零細の商店主と小規模資本の境目となるのは、自身が不動産を所有しているかいないかだ。不動産を所有していない者はみな同じなのである。そうした所有構造が、法と制度をいっそういびつな形にしている。

では、どうするべきか?法や制度を変える努力をするのと同時に、所有を主張できる内容を拡大し、自分たちで直接所有しなければならない。商売人は自分の努力の結果として、形成された商圏という資産を所有するべきであり、マウルは自分たちの活動の結果を維持し、強化するために、全ての空間を最大限、直接所有できるよう努めなければならない。個人の所有が難しければ協力して、共同で所有しなければならない。そうしたことを押し進め、地域の共同資産を形成し、独自の所有領域を広げなければならない。これからのマウル活動はそうした方向に進んでいくべきだろう。    (2015.09.11)

文:ウィ・ソンナム/やさしい事務所所長

翻訳:コリ・チーム(小山内園子)

原文(韓国語):http://www.pressian.com/news/article.html?no=129660