10月 282015
 

代表より移住労働者の給料が多いここは…

昨年一年は協同組合の年だった。企画財政部の資料によると、今年の1月31日の時点で全国に3597の協同組合が設立された。去年の2月に設立された協同組合数が444。10カ月間になんと3000もの協同組合が新しく設立された。現在、この瞬間にも全国の自治体に協同組合設立の届け出が相次いでいる。今年の1月、1カ月の間414の協同組合の設立が申請された。2012年12月1日に協同組合基本法が発効し、1年あまりの間に起きたことだ。誰も予想できなかったことだった。

去年一年で設立された協同組合の中で、文化協同組合、知識人協同組合、代替エネルギー協同組合、マウル共同体事業協同組合などが、マスコミと人々の注目を浴びた。これらの協同組合は、公益を優先したり、多くの人々が享受しようとする代案文化、共同体的な欲求ときっかり合ったためだった。一方で、相対的に労働者協同組合(職員協同組合)は特別関心を引くことはなかった。協同組合でも労働はいまだに人気がない。労働者協同組合は、協同を通じて資本の搾取、支配から抜け出した主体的な労働を夢見る。わたしたちの社会で資本主義の一番大きい争点である搾取の問題が社会的議題にならないように、いかに協同組合の受けがいいとしても、労働者協同組合がもつ下心のある不純な夢は注目されるのが難しかったと言ったら推測が過ぎるだろうか?

済州島にも、異なる経済と労働を夢見つつ作られた労働者協同組合がある。幸せ分かち合いマート協同組合だ。幸せ分かち合いマート協同組合は、既存のスーパーを買収し、去年4月1日に労働者協同組合としてスタートした。現在、組合員は23名だ。社団法人幸せ分かち合い済州共同体が、幸せ分かち合いマート協同組合を作った母体である。社団法人幸せ分かち合い済州共同体は、済州の進歩政党、地域運動、労働運動をする人々が志をもって昨年初めに作った団体である。生活の問題を一緒に解決していきながら、協同体間の協力を通じて成長を夢見、多様な協同体が済州を変える契機となることを望んだ。幸せ分かち合い済州共同体が一番初めに始めた事業は、幸せ分かち合いマート協同組合だった。昨年一年、多様な協同組合が全国で作られたが、スーパーを労働者協同組合として設立するのは済州島の幸せ分かち合いマート協同組合が初めてだ。

済州島の幸せ分かち合いマート協同組合

済州島の幸せ分かち合いマート協同組合

幸せ分かち合いマートは、売店規模が270坪で中規模マートだ。済州市のノヒョン洞に位置している。済州市ノヒョン洞は、新済州と呼ばれる所である。ソウルで言えば、済州島の江南といったところだ。マンションの売買価格が3億ウォンを超えるところもある。済州で際立った地域だ。そのせいか、済州島に4つの大型スーパーがあるが、このうち二つがノヒョン洞にある。幸せ分かち合いマートは、e-martとロッテマートの大型スーパー2店の間に位置している。事業経験もない地域の活動家たちが、まるで大型スーパーの向こうを張るかのように、ここに労働者協同組合のスーパーを作ったのだから、無謀ではないかと憂慮されて当然である。

キム・ギソプ パプリカ・インターナショナル代表は『立ち上がれ協同組合』という著書で、「いまや、労働者協同組合は共同所有の協同組合という点を重視して、民主的内部運営と管理という“協同労働”の協同組合という見地から再び注目を集めなければならない」と言った。労働者協同組合の核心は、共同所有企業であることではなく、協同労働企業ということである。キム代表は、協同組合ではモンドラゴン協同組合の原則で見られる民主的な組織、資本に対する労働者の主権、資本の道具的かつ付随的な性質、経営への参与、報酬の連帯性などのような内部的な運営方式の問題が重要なテーマとなっている、と強調した。幸せ分かち合いマート協同組合が開店してもう一年が経とうとしている。どのような成果と限界があるのだろうか?

幸せ分かち合いマートは、労働者協同組合として出発した当時は限界もあった。既存のスーパーを買収したためだ。つまり労働者マート共同組合を作ろうという目標と趣旨に同意した人々を募って始めたものではなく、既存のスーパーの職員とともに始めたのだった。そのため限界もあったが、既存のスーパーとすぐに比較できるという強みもあった。イ・ギョンス幸せ分かち合いマート協同組合代表は、「スーパーという事業自体は、大型スーパーはもちろん中小スーパーも人件費を安く抑え収益を出すという構造だ」と述べ、「既存のスーパーで働く職員が11名いたが週6日勤務で、一日10時間働いて一カ月にもらう給料は120万ウォンであった」と言った。イ代表は、「幸せ分かち合いマートは去年4月に開店し、労働時間を一日10時間から8時間に減らし、給料は170万ウォンへ上げた」と述べた。イ代表は「賃金体系を決める際、賃金制度を平等にした。理事長であれ一般職員であれ、同じ時給6100ウォンをもらう」と説明した。そうしたところ、理事長よりも労働時間が長い配達担当の労働者や、理事長より年配の中国同胞の労働者の給料がより高いという。26歳のフィリピンの女性労働者も全く同じ給与体系の適用を受ける。以前には100万ウォンあまりの給与を受け取っていたが、現在160万ウォン程度もらっているという。このようなことは労働者協同組合だから可能なことである。代表も中国同胞労働者もフィリピン女性労働者もみな同じ組合員であるためである。

済州幸せ分かち合いマート

済州幸せ分かち合いマート

幸せ分かち合いマートは今年から賃金削減と労働条件に引き下げなしに週5日制を実施した。すると働いていた労働者も開店当時11名だったが、21名へと二倍も増えた。もちろん労働者はみんな正規社員である。中小マートで働く労働者の大部分は契約社員でもない日雇いという身分だ。給与は最低賃金の水準で、4大保険([訳注]雇用保険、国民年金、健康保険、産災保険)の適用も受けられない。労働基準法のことは、雇用主も労働者も考えもしない。大型マートは中小マートの自営業者とは異なり、財政的な能力が十分だが労働搾取という側面からは別段変わりはない。むしろ、より悪質で巧妙だ。少し前におこったe-martの労組設立妨害の事例をみてもそうだ。

幸せ分かち合いマート協同組合は、報酬の連帯性の水準が高い。むしろ、水準が高いがために反発が出たりもした。幸せ分かち合い共同体の共同代表カン・ソクス氏は、「中国の同胞なのに年配なので給与を一番多く受け取ると、済州島の人間である私たちよりもあの人はどうして賃金がそんなに高いのか、という反発が出た」と言った。労働者協同組合として運営をやってみると、賃金を含む様々な困難、葛藤が起きる。カン代表は「毎週1回の討論会や組合員教育を行っている」とし、「なにか問題と葛藤が生じると現場で組合員の討論会を通して解決を探っていく」と明らかにした。教育と討論を通して協同組合のアイデンティティーをともに探っていく過程だという。カン代表は「すべての組合員がパソコンを使えて、日々の収入と支出を知ることができる」と述べ、「売上に伴う収入や残金がいくらなのか透明性のある情報公開をしている」と言った。

別の話をもう一つ。最近「感情労働が健康に与える影響」という研究調査が発表された。キム・イナ延世大学教授が、2007年から2009年の間に実施された国民健康栄養調査に協力した賃金労働者約5700名を対象に調査を行った。その結果、感情労働をたくさんすればするほどうつ病や自殺衝動により陥りやすいという結果が出た。感情労働者たちは普通労働者よりうつ病は平均で3.7倍、自殺衝動は平均3.3倍も高かった。感情労働というのは、職業上、自分の感情を抑えたまま特有の表情や身振りをする労働だ。顧客や上司が、たちの悪いことをしても耐えなければならない。スーパーの店員、飛行機の客室乗務員、デパートの販売員、食堂の店員、コールセンター職員などが代表的な感情労働者である。幸せ分かち合いマートで働く組合員であり、かつ労働者である彼らはどうだろうか?マートに来る客の中でいわゆる「クレーマー」がいる。客を選ぶわけにはいかないから。ある日、無礼な行動をしたクレーマーと、これに我慢が出来なかった労働者が、結局いさかいを起こした。このような時、客たちがよく使う言葉がある。「社長を呼べ」。これを聞いた労働者が言った言葉。「私が社長だ」。周囲の知人何人かにこの話をしたところ、面白がった。代表としては困ったことだったであろう。試行錯誤中ではあるが、労働の面白い変化が始まっているということではないだろうか。

幸せ分かち合いマート協同組合も解決せねばならない課題は多い。幸せ分かち合いマートは組合員間の出資金の差が大きい。既存のスーパーで働いていた労働者たちは一口300万ウォンずつ出資をした。最低賃金の水準で働く彼らとしては実はこれ以上出す余力はなかっただろう。11名が出した出資金だけでは全く足りない資金。イ・ギョンス代表は周囲の知り合いを通じて不足した出資金を集めた。何千万ウォンも出資金として出した人もいた。組合員間の出資金の差が大きいので、一口だけ出資した労働者組合員の幸せ分かち合いマート協同組合の主人だという意識が薄れないわけがなかった。スペインのモンドラゴン協同組合ではこのような問題を避けるため、全組合員が同額の出資金を出す。イ代表は「協同組合として1人1票ではあるが、一口のみ出資した人はなにか従属的なものを感じ、何口も出資した人は権限がより強いと感じ、いざこざの要素になる」と言った。

これを解決するため、イ代表は「一口出資した人は3、4口に増やし、20口出資した人は減らしていく計画を立てている」とし、「何口も出資した人には、スーパーに収益が出れば出資金を現金で返す計画だ。出資金の額と同じにするのは難しいが、一定の範囲内におさめることを目標にしている」と明らかにした。これと同時に、組合員間の出資金の差による配当金の差を抑えるために、出資配当金だけではなく仕事配当金も作った。労働に対する配当だ。出資配当金と同じ比率である。全体の収益のうち約4%になる。去年、労働者1名あたり92万4000ウォンを仕事配当金として受け取った。イ代表は「仕事配当金を一年毎に受けとることもできるし、退職する際にまとめて受けとることもできる」と言った。

キム・ギソプ パプリカ・インターナショナルの代表は「労働者協同組合を見る際、留意しなければならない点は、労働者協同組合が内向きには産業民主主義を提供することができても、対外的には従来通りの一つの企業に転落する憂慮がある」とし、「このような問題は特に労働者協同組合の参与主体と事業内容、そして剰余金の分配方式からはっきりと表れる」と指摘した。キム代表は「これまで多くの労働者協同組合がその参与主体を内部の労働者に限定し、一般企業とあまり違いのない事業内容を一般企業とあまり差がない事業方式として展開したが、剰余金の分配、そして内部的構成員に対しては報酬の連帯性を発揮したかもしれないが、外部社会に向けてはそれほど考配慮しなかったのは事実である」と話した。

幸せ分かち合いマート協同組合も、キム代表の指摘から逃れることはできない。イ代表は「協同組合の基本趣旨は第一に組合員の権益向上、第二に地域社会への寄与だ」と述べ、「現在組合員の権益向上は一定の満足を得ているが、地域社会への寄与は不足している」と明らかにした。個人事業者がマートを運営した際は、一日の売り上げが平均800万ウォンだ。現在は20%上がり、1日の売り上げが1100万ウォンである。売り上げは伸びたが、給与を大幅に上げ、人手を増やしたので、人件費の比重が半分に達するのが現実だという。イ代表は「地域社会に寄与するためには売り上げをさらに上げなければならない」と語った。

幸せ分かち合いマートは収益の3分の2を地域社会に還元する

幸せ分かち合いマートは収益の3分の2を地域社会に還元する

幸せ分かち合いマート協同組合は、地域社会に寄与することを志向したときから積極的に頭を悩ませてきた。幸せ分かち合いマートは開店して、積立金と配当金、各種費用を除いた収益の3分の2を地域共同体活性化事業への支援、地域内の社会的弱者への直接支援などの方法を通して地域社会に還元することにした。低所得者層には働き口を提供するため作られた自活共同体“マットリム”おかず事業団をはじめとする済州地域の社会的企業を幸せ分かち合いマートに呼び込むなど、分かち合いと連帯の経済を実現するため努力している。現実的な並々ならぬ困難もある。イ代表は「法定積立金10%、事業準備金、事業開発費、教育など使用される任意積立金と仕事配当、出資配当などを除外すると、地域社会に還元するお金は少ない」と正直に語った。また、イ代表は「このような状況なので、自分たちだけいい思いをしようとしているのではないか、という批判を受けることもある」と語った。

幸せ分かち合いマート協同組合は、はじめの一歩を踏み出した。イ・ギョンス代表は、やはり「これからの道のりは長い」と述べ、「多くの課題を解決するためには最低でも2、3年はかかるだろう」と加えた。内部的には賃金の平等性を越え、組合員たちが自ら組合の主人として立つよう努力せねばならず、対外的には済州の地域社会とともに共同体を作っていくという課題を達成しなければならない。大型マートとの熾烈な競争を生き延びてはじめてこれらの課題も実現可能となる。

パク・クネ大統領は3月10日、青瓦台首席秘書官会議で「無駄な規制は打ち破るべき敵であり、除去せねばならないがんの塊」だと発言した。パク大統領の規制撤廃の発言がなされた後、大型マートは義務休業日すらなくせ、とごねている。大型マートの義務休業日は、大企業と商店街との間の共存の象徴的な存在だ。経済民主化の波に乗り、作られた。労働者協同組合は、やはり大企業中心の経済体制下で生き延びるのは難しい。幸せ分かち合いマートは、e-mart、ロッテマートの二つの大型マートの間に位置する。月に二回、同日に二つのマートが休業する。この日、幸せ分かち合いマートの売り上げは一日1100万ウォンから1500万ウォンへ跳ね上がるという。パク大統領が、がんの塊と規定した規制を除去してぶち壊すと言ったのは果たして何なのか憂慮される。

スペインのモンドラゴン協同組合グループに、エロスキという流通分野の協同組合がある。スペインで二番目に大きい流通企業である。全国に2500の売り場を運営している。イ代表は「まだバラ色の展望を述べる時期ではない」ときっぱりと言ったが、モンドラゴン協同組合グループも小さな一つの労働者協同組合から始まった。モンドラゴン協同組合は、111個の協同組合から拡散しながら内部連帯の経済を実現した。モンドラゴン協同組合グループはスペインのバスク地方にある。バスク地方はスペイン内にありながら独自の言語と文化をもつところである。そのため自治地域である。済州島にもバスクと似た側面がある。幸せ分かち合いマート協同組合が済州版モンドラゴンの始まりとなれば、と思う。    (2014.3.31)

文:パク・ジニョン/前公共運輸労組連盟組織局長

翻訳:コリ・チーム(酒井結実)

原文(韓国語):http://www.pressian.com/news/article.html?no=115741