11月 282015
 

「自分が望んでいる将来」を中学生に聞いてみたら…

先月、某中学校の学生たちが現場学習の一環として「福祉国家Society」(【訳注】社会・経済民主化を通じて、躍動的な福祉国家大韓民国を作ろうと努力している人々が集まって2007年に発足した社団法人/民間シンクタンク)を訪ねてきた。14−16歳の中学生たちに「幸福」とは何かと聞いてみると「自分のやりたい仕事をすること」という答えが一番多かった。続いて「自分が望んでいる将来」を想像する時間を用意した。ほとんどの学生たちは「SKY大学に通っている姿」(【訳注】SKYはソウル大学校、コリョ大学校、ヨンセ大学校を指す)を自分の未来として夢見ていた。それぞれの適性に合う興味の分野が人によって異なり、希望する仕事も様々であったが、「名門大学への入学」は誰もが望んでいる最高の姿であった。

何がこの子供たちの想像力を制限してしまったのであろうか?

中学生たちは急な質問に戸惑っていたかもしれない。また与えられた20分という時間が、想像力を発揮するにはあまりにも短かったのかもしれない。ただ、そうであったとしても、子供たちの「名門大学進学」は、現実的な制約がなかったとしても一番求めている姿になってしまった。自分のやりたい事をする時がもっとも幸せと考える子供たちに、名門大学への入学が一番大事だというような幻想を、いったい誰が植えつけてしまったのであろうか。果たして何が子供たちの想像力をこのように制限してしまったのであろうか。

韓国における教育の現実

フランスの日刊紙<ル•モンド>は、韓国の教育システムについて「世界で一番厳しく苦痛であり、競争の激しい教育」と言ったことがある。このような教育により韓国の学生たちは、学習到達度は高いとしても不幸であると分析した。

実際、韓国で青少年が死亡する第一原因は自殺である。自殺の原因として「成績および学業への悲観」が多い。韓国では青少年の自殺率が、最近の10年間で57.2%も増加した。同期間中の経済協力開発機構(OECD)の平均が減少していたことを考えると、韓国の状況は世界的にも異常であることがよくわかる。韓国の教育システムが青少年たちを死へと追い込んでいる。具体的に言えば、韓国の教育システムは目標と方法において次のような大きな問題を抱えている。

夏休み補習を受けている高等学校の生徒。 ⓒ聯合ニュース

夏休み補習を受けている高等学校の生徒。 ⓒ聯合ニュース

1) 教育の目標:入試競争における勝利

現在の初等学校•中学校•高等学校の教育における一次的な目標は、入試という関門を突破し名門大学に入ること。過去には入試に関する問題が高校生、特に高校3年生の受験生を持つ親の悩みとして考えられていた。しかし、最近の私教育の現場においては、初等学校の生徒の入試をサポートする塾も多く見られる。「国際中学校→特殊目的高等学校」という流れに乗らないと名門大学に入れないという一種の法則が、親たちの間でまかり通っているからである。このような理由により、子供たちは幼稚園を卒業して初等学校に入るとすぐに、各種の競技大会および資格を取るための試験、ボランティア活動などの「スペック積み(スキルアップ・セールスポイントの獲得)」を始め長期的な入試レースに巻き込まれていく。

そして、中学•高校に上がると本格的な始まりとなる。大学の進学率が80%を超える中で数少ない名門大学に入るためには、隣の友達も潜在的な競争者として意識しなければならない。自分以外の受験生には安全志向の出願をさせるため、大学修学能力試験の成績表を偽造して嘘の情報を流布する「修能フーリガン」の登場は、このような入試第一の過剰な競争が呼び込んだ悪霊ともいえる。

2) 教育の方法:注入式教育

熾烈な競争の中で生き残るためには、短い時間内に他人より多くの情報を取得しなければならない。そのために、何人かが一緒に話し合い意見を共有する討論•体験学習はなくなり、与えられた情報をそのまま暗記する注入式教育が主となってしまった。このための時間を妨害し、身体活動をさせる体育の授業は、不必要となり最低限に減らされてしまった。その結果、韓国青少年たちの学習時間は世界で一番長くなった。

国際学習到達度評価(PISA)によると、青少年の一週間における学習時間はOECD平均が33−34時間であるのに対し、韓国ではこの時間より15時間も多い49時間である。特に、高校生の平日の一日は10時間以上、一週間でほぼ70時間以上を机の前に座り、先生から与えられたたくさんの情報を無感覚で頭の中に入力することに時間を費やしている。成長期の青少年たちにとって適正な睡眠時間は8時間であるが、韓国では5時間も寝られないことが多い。

このような状況の中で、韓国の青少年たちは自ら考え、質問を通して独自に答えを出していくという過程に接することができなくなった。与えられた情報だけを暗記することで興味も徐々に無くなっていく。その結果、韓国の青少年たちの暗記能力はOECD平均を超え学習到達度も最上位であったが、学校で感じる幸福度指数は最下位にとどまっている。身体活動は少なく座っている時間は長すぎて成人病の危険性も高くなり、入試のストレスによる「高3病」もしくは「入試病」と呼ばれる精神不安の状態が生じることもある。

3) 教育の主体:弱い公教育と、巨大な私教育市場

三つ目の問題は、今の教育システムを政府がきちんと統制していないことである。学校で創造的学習へと導くことができても入試第一の勉強を要求する親たちが塾という私教育を選ぶかぎり、上記に挙げた問題点は繰り返されていく。特に、韓国の私教育市場は異常に大きい。私教育市場の規模は約32兆ウォン以上で全体教育予算の60%に及び、さらに増加を続けている。私教育市場が大きくなればなるほど、私教育の業者間の競争が激しくなり、教育の本質より利潤を追求する対象に転落してしまった。

外国と比較してみても韓国の私教育費に投入される財源は多すぎる。[表1]をみると韓国における全体教育費の支出はOECDをはるかに超えているが、私教育費は平均の三倍以上である。その反面、ヨーロッパの国々は韓国より全体教育費の支出が少なくても公共支出ははるかに高い。私的領域が発展したアメリカでさえも韓国と比べると、はるかに多い量の公共財源を教育に投入している。このように韓国では私教育市場が大きくなり相対的に公教育は弱くなった。

[表1] GDP対比公教育および私教育費の国際的規模(単位:%)

[表1] GDP対比公教育および私教育費の国際的規模(単位:%)

▲	GDP対比公教育および私教育費の国際的規模

▲ GDP対比公教育および私教育費の国際的規模

無題

子供たちが夢見ることのできる教育作り

教育は、これから社会を導いていく未来の世代に、人間としての基本的な素養や社会的な規則などを習得させることで、共に生きていく社会構成員となるための重要なプロセスである。それゆえに持続可能な社会を作り出す核心とも言える。

このような重要性のために教育システムを改革しようと今まで様々な政策が施行された。イ•ミョンバク政府は発足時から私教育費を半分に減らすという公約を掲げた。また、現政府も教育改革を公共改革、労働改革、金融改革に次ぐ4代改革の対象とし重点的に推進すると公言した。しかし、私教育市場は小さくなるどころかどんどん大きくなっている。むしろ、あれこれと様々な政策が施行されることで、政府が塾を救おうとしているのではないかという非難まで起きている状況だ。歴史が必須科目となり、塾では歴史専門の講師たちが人気を浴び、一部の学校では「放課後の学校」に私設塾の講師まで呼び、学生たちの指導を行っている。

このような政策的な失敗は、子供たちを再び死のどん底へと追い込んでいる。昨年、入試のストレスに悩まされていた蔚山(ウルサン)の学生のひとりが、受験日の前日部屋で首を吊った。昌原(チャンウォン)のマンションで身を投げた女子学生はマンションの花壇で発見された。もうひとりの女子学生は、ソウルの名門大学が施行した随時一次試験に合格していたが、修学能力試験が台無しだと海に身を投げた。また、成績表が出る前日にもひとりの男子学生がトイレで首を吊った。

このようなひどい状況を克服するためには、教育の本質へと戻り全面的な改革をしなければならない。まず、私教育市場に対する規制が優先である。現在、多くの私教育機関が一時にどっとできてしまい、政府ではきちんと現況を把握していない。そのためには、私教育機関を対象とする行政情報システムを構築し、具体的な現況を把握するとともに、データを構築しておいたほうがいい。そして今後これをもとにして、いまだに公然と行われている夜間教習を禁止するなど、規制が正しく守られているかについての継続的なモニタリングが必要である。

また、入試第一の初•中•高の教育体系を改変し、創造性を高める討論の授業や体験学習など、多様な経験を積むことのできる教科課程を作らなければならない。現在、入試第一の教育が行われる原因のひとつとして、高学歴者たちが競争力を持っている労働市場の構造的な問題から起因する側面が大きい。その点においては、教育政策だけをもって解決するには限界が生じる。ただ、現在における教育の方向を再設定しなければならないということは必ず必要である。結局は、長期的な観点から教育部と雇用労働部間の協力を通して労働市場を改革するための共助をしながら、今の時点では、教育部は教育の方向における再構築を重点にしなければならない。

最近の韓国社会を指すひどい言葉「ヘル朝鮮」も入試地獄から起因したという説がある。学生時代に最初の地獄•入試地獄で挫折を経験するが、そこから抜け出ても就職競争などの別の地獄が幾重にもなって前を塞いでおり、挫折が積み重なって生じた言葉だという。これからもこの国がヘル朝鮮から抜け出せるかどうかは、入試地獄からどう抜け出るかにかかっていると言ってもいいくらい、入試第一の教育体系を改変することはとても大事である。

もうすぐ大学修学能力試験である。今年は、多くの若い尊い命が入試のプレッシャーに負け、自らこの世から去ったという悲しいニュースが聞こえてこないように願う。この望みが実現に結びつくためには、必ず大きい枠の制度改革に乗り出さなければならない。これは政治の役割でもある。教育の巨大な改革に対する国民的合意を集めることは、政治だけができる。全面的な教育改革を通して、子供たちが現実的な制約を超えて自由に想像力を発揮できるよう、夢を育てる教育制度を作らなければならない。そしてその創造的な夢が現実となり、未来のこの社会を導いていくであろう。これこそが今、大韓民国の教育を滅ぼした「古い政治」を変えるべき理由である。   (2015.11.11)

文:チョン・チョウォン/福祉国家Society常勤研究員

原文(韓国語): http://www.pressian.com/news/article.html?no=131058

翻訳:コリ・チーム/シム・ヂヨン