12月 272015
 

マウル国際カンファレンスの看板

マウル国際カンファレンスの看板  (ソチョ区)

今秋、ソウル市とソウル市マウル共同体総合支援センター、ソウル市イノベーション・センター、ソウル市ユース・ハブが共催し、「社会イノベーション会議2015(Social Innovation Conference 2015)」と銘打って開かれた国際会議に参加した。11月16日(月)から19日(木)までの会期とその前後を含んだ6日間、革新市政のもとで活気づくソウル市民のまちづくり活動を垣間みながら、国や言語の違いを超えた人と人とのつながりと共に学び合い高め合うことの意義を痛感してきた。この体験をここで紹介させていただきたい。

前半の2日間(16〜 17日)は、マウル共同体総合支援センターが主催する、ソウル市マウル国際カンファレンスというコミュニティ会議であった。ソウル市内の5つの区(クムチョン、トボン、ソチョ、マポ、カンドン)を会場に、外国からのゲストを交えて講演会やワークショップ、セミナーなどが催された。私はドイツのマザーセンターの創始者であるヒルデガード・ショースさんとともにソチョ区に迎えられ、ホストのシン・ヨンヒさんと通訳を務めてくださったイー・スンジュさんたちの力を借りながら、講演会で2つの報告を行ない、市民活動の場を訪問し、地域で活動する方たちと親睦を深めた。

市民活動の視察では、保育室と小さな図書室をもつ「蛍センター」という名のコミュニティ施設、放課後の子どもたちの共同保育スペース、高層団地のなかで母親たちが運営する子ども図書館を訪問した。いずれも各自の問題意識や地域の必要に基づき行なわれている活動だが、悩みや課題も抱えている。たとえば子ども図書館の場合、マンションの共益費で運営されているものの、子どもがいる住民ばかりではないため、共益費の使用に疑義を呈する人もいるらしい。またどの活動も共通してあげていたのが、運営に関わるボランティアや活動への参加者をどう増やすかであった。多くの人に活動の意義を知ってもらい、協力者として活動に呼び込もうと、それぞれ苦心している様子がうかがわれた。

『蛍センター』の保育室

『蛍センター』の保育室

イー・スンジュさんが関わる「まちの小さな図書館」と「おかずクラブ」の方々と会食する機会にも恵まれた。「おかずクラブ」は、食材を共同購入し、料理の得意な人がまとめてつくり、数家族で分けるという、一種の生活協同組合のような活動らしい。これにより、料理の苦手な人や忙しい人は助かり、まとめてつくることで経費の削減にもなる。家事負担の軽減をはかり、共同意識を育む活動といえよう。図書館活動としては、絵本や児童書に関する学習会も定期的に行なっているそうで、その成果をまとめた『ドングラミ』と題する美しい本をいただいた。歓談のなかで、いつかドイツのマザーセンターのようないろいろな人が集まれる場をつくりたいという話が出た。彼女たちなら実現は夢ではない。

会議三日目の18日は、ソウル市主催の公開会議が「Transforming Urban Lives through Social Innovation」をタイトルに掲げて市庁舎で開かれた。午前中の講演会には多くの市民が参加し、熱気あふれるものになった。午後は二回のセッションがそれぞれ二つのプログラムを並行する形で行なわれた。

何より印象に残ったのは、午前中の講演会で、カナダのチャールズ・モンゴメリー氏(『ハッピー・シティ』の著者)、ベネッセコーポレーションの福武總一郎氏、マザーセンターのヒルデガード・ショース氏につづいて登壇した、ソウル市長のパク・ウォンスン氏である。市民の声をきく、ガバナンスとイノベーション、ソウル市イノベーション・パークの開設などなど、氏が発する言葉とそこに込められた情熱に、私は初めてこの会議の意味を理解した気がした。この会議は市民と市民活動を応援するためのものなのだ、と。ソウル市が抱える問題は、日本でも同じく深刻な問題であり、その解決に市民の力を必要とする点も同じである。しかし市民と共に解決に努力する首長がいるかどうかでは、大きな違いがある。このような会議が開かれること自体に、市民と市民活動へ寄せる首長の期待と信頼が表われていると思った。

市長室にて

市長室にて

最終日の19日、ソウル市イノベーション・パークのユース・ハブを会場に、ゲストや関係者がこの3日間を振り返った。アイス・ブレイキングのあと、3日間で何を話し合い、何が変わり、どう考えたか、各区のホストとゲストが報告した。午後は「How to innovate ourselves?」というワークショップを通して、社会活動に関わる一個人として自分をどう変革できるかを模索した。最後にこの会議で最も印象に残ったことを書いて、紙飛行機にした。私が拾い上げた紙飛行機には、「さまざまなところに問題があり、それぞれが解決策を追求している」という旨が書かれていた。そうした問題解決を追求する人々が集まり、それぞれの経験を分ち合いながら、今後の活動への手がかりを得て意欲を新たにする場が、今回の会議であったといえよう。

私が会議に参加したきっかけは、ある集会(日本社会教育学会6月集会、於立教大学)での報告にある。自分が住む東京都練馬区における女性たちの住民運動についての報告で、女性たちの連帯と共同が今の練馬のまちの基盤をつくり、その過程で女性たちも市民として成長していったという内容であった。これをNPO法人希望の種の桔川純子さんが聞いておられ、ソチョ区が都市の女性まちづくり活動家の活動と成長、およびまちの母親たちの意識の変化と成長をいかに引き出すかを会議のテーマにしていることを受け、私をスピーカーへと推薦してくださったのである。

その期待に応えられたかどうかは心もとないが、会議を通した出会いと交流が、私はもちろん、そこで体験を共有した人たちの間に、市民意識をもとにした友情と連帯感を育んだことは確かである。そしてそれぞれの今後に何かしらの影響を残したことも確信する。

講演会で私は、一人の女性の素朴な思いに発した行動が、やがて共感を呼びつながりを広げ、社会をも動かす力を生み出していった事例を紹介した。たとえ小さな一歩でも、踏み出すことで何かが変わり、社会をも変えていくかもしれない、そしてそれ自体が歴史を形成していることなのだと伝えたかったのである。講演後、ヒルデガードさんが、「今やドイツ国内に400を超える数となって広がったマザーセンターも、最初は一人で始めた、そのことを思い返し感慨深かった」と言ってくださったのは忘れられない。

シンさんが主宰する市民の学習の場Value Garden

シンさんが主宰する市民の学習の場Value Garden

この講演も、内容が歴史(昔のこと)に偏りがちだと心配し、「もっと現在にひきつけて話すように、参加者は問題の解決に役立つヒントがほしいのだ」と助言してくれたシン・ヨンヒさんと、内容構成の組み替えを一緒に考え、本番では適確に翻訳してくれたイー・スンジュさんに助けられて成り立ったものである。本当に二人には感謝している。

この二人に加え、ソチョ区のもう一人のホストのナム・ヨンジュさん、マザーセンターの方々、ドイツ語通訳のお嬢さんたち、マウル共同体総合支援センターのキム・ソヨンさんたちとは、期間中ずっと行動を共にし、まさに国と言語を超えたよき仲間となった。

とにかくたくさんの方のお世話になった。マウル共同体総合支援センターをはじめ会議関係者の方々、各区のホストやゲストの方々、通訳についてくださった方々、ソチョ区の市民の方々、なんとお礼を申し上げてよいのかわからないくらいである。

会議から一月以上を経たが、未だ興奮は覚めやらぬまま、心のどこかであの6日間のことを反芻している。この体験で得たものを、地域や日常生活のなかでの私の市民としての活動に生かしていくことが、たくさんの方から受けたご親切とご恩に報いることだろう。できることから、小さいながらも踏み出したいと考えている。         

文:山嵜雅子/練馬女性史を拓く会