4月 142016
 

済州島ミカンを食べて育った「ウスンイ」をご存じですか?

その昔、済州島では便所で豚を育てた。釜山の人間である私は、幼い頃小学校の先生からその話を聞いて以来、用を足す為にお尻を割って座っている時に豚が舐めたらどうしようという無駄な心配をした。その便所を済州では「トットンシ」と呼んだ。「トッ」は豚で「トンシ」は便所だ。済州島の人々は「トットンシ」を非衛生的な場所だと考え恥ずかしがった。1980年後半まで存在したのち消滅した。そうした「トットンシ」は済州島の伝統社会の生態的な知恵が余すところ無く染み込んだ場所だ。畑仕事をして余った副産物のみならず、人間と豚の糞尿までも資源にして作った。最近の言葉で言うと「リサイクリング」であり「生態循環」だ。ユン・ヨンテク済州大哲学科教授は「済州島の人々は、辛い逆境に打ち勝てたのは生態的に生きてきた為だ」とし、「済州島の伝統文化は生態文化であり、済州島の伝統社会は生態社会であった。」と強調した。

済州伝統社会の知恵を生かして農業を行う済州の人々がいる。畑仕事をしながら出来た副産物を牛に飼料として食べさせ、牛の糞尿を農作物の肥料として回した。ハンサリム済州生産者の「ハヌルコミュニティ」がまさにそれだ。5つの農家がハヌルコミュニティで共にしている。11月中旬、ハヌルコミュニティ作業室でシン・マンギュン代表に会った。

ハヌルコミュニティ シン・マンギュン代表

ハヌルコミュニティ シン・マンギュン代表


「10年余りの間環境に優しい有機農業を行ってきた。ところがエコ農業の有機肥料等、資材の大部分を外国から輸入していた。他の案が無いかと悩んだ。5,6つの農家が先導的に代案を作ろうということで合意した。」

エコ有機農業というと、自分達の土地で有毒な農薬と化学肥料を使わずに農作物を健康に育てる事を思い浮かべる。「身土不二」という言葉が最も良く似合う農業だ。ところがエコ農業の有機肥料や資材が我々の土地から出た物ではなく、外国から輸入したものであるとしたら、完全な「身土不二」と言えるだろうか。その為、ハヌルコミュニティの農家たちが考えた代案は畜産を介した循環農業だった。

「有機畜産も飼料の一部原料を外国から輸入する。輸入したトウモロコシ飼料のうち遺伝子操作トウモロコシが含まれる場合もあり、これに対する問題提起もあった。ではどうするのかという論議があった。輸入飼料の代わりに地域で出来た農業副産物で自ら作る畜産をしてみようと考えた。

ハヌルコミュニティはエコ有機農業でミカン、豆、麦、大根、ブロッコリー等を生産している。ここで出た副産物(豆がら、麦ぬか等)と規格外商品(大きさが小さかったり傷があり商品に出来ない農産物、B級品)が国産飼料になった。シン代表は「ハヌルコミュニティが国内で初めて100%自給型国産飼料で牛を育てている」と強調した。

ハヌルコミュニティは我々の農業を守り、食料自給率を上げなければならないという使命を感じた。全体の食料自給率は22.6%、米を除外すると3.7%だ。北朝鮮の食糧自給率は70%台にもかかわらず、あのように餓死するという事態が発生した。世界の食糧危機が訪れる時、この国で広まる事態を考えると、背筋がぞくっとした。シン代表は「豆や麦農業をせず、お金になるブロッコリーやコールラビのような物だけ作ろう」とし、「こうやって農業が継続されれば麦、豆の農業基盤が崩壊する。食料自給率が落ち続けている中で、このまま放っておくわけにはいかない」と話した。

牛の糞尿で作った堆肥のみで栽培したブロッコリー

牛の糞尿で作った堆肥のみで栽培したブロッコリー


シン代表は「農業副産物と規格外商品で作った飼料をあげる事で牛が大きくなるのか、また消費は上手くいくのか、確信は無い」としながらも「ひとまず飛び込んだ」と話した。やはり具体的な代案は、研究者や理論集団よりは現場での実践と経験が作り出す物、しかし「下からの代案作り」が成功する為にはこれらを可能にする「上からの手助けと介入」がやはり必要だ。

「国産飼料韓牛飼育が我々の力だけでは成功は難しいと考えた。ハンサリム全国連合会で一緒に答えを探そうと要求した。消費者組合員がお金を集めて子牛を入植し、2,3年育てて再度返す方式で国産飼料韓牛飼育運動をしようと提案した。この提案をハンサリム城南龍仁生協が受け入れた。」

ハヌルコミュニティは去る2011年からハンサリム城南龍仁生協と、国産飼料韓牛飼育の入植事業を試験的に施行した。消費者組合員が募金したお金で子牛を入植して、その子牛が大きくなり3頭の子供を産んだら消費者に食肉として返すという方式だ。ハンサリム城南龍仁生協は2013年まで3年間1億3700万ウォン余りを募金した。ハヌルコミュニティはこれを基盤に、韓牛38頭を入植した。

「今年第一回目として城南龍仁へ牛を送った。2015年と2016年の正月に第2,3回目を送りだせば、ハンサリム城南龍仁生協との事業は終了する。2017年からは、ハンサリム全国連合会が国産飼料で育てる韓牛を全量消費する事にした。」

ハンサリム済州生協も、済州を循環農業地域にする為に一肌脱いだ。ハンサリム済州とハヌルコミュニティが去る14日、ハヌルコミュニティ作業場で「国産飼料韓牛責任消費約定協約」を締結した。ハンサリム済州は2015年1頭、2016年1頭、2017年2頭等、3年間で4頭を責任消費するとした。ハンサリム済州とハヌルコミュニティは済州地域の畜産と農業の転換、畜産糞尿と環境汚染問題等に関する代案模索の為にもお互いに協力する事とした。

大規模畜産団地が済州の食水と環境を汚染させている。畜産団地の糞尿のせいで住民たちに長い間飲み水の役割をしてきた水源が閉鎖されてもいる。飲む水がない島に未来は無い。生態的に生きてきた済州の人々の知恵が再び求められる時だ。

産業化した畜産農業は済州のみならず地球全体に悪い影響を及ぼしている。畜産農業が全世界の温室ガス18%を排出している。この世の中の全ての自動車、船、飛行機が噴き出す温室ガスよりも高い数値だ。地球温暖化による被害は既に世界各地で、我々の日常のあらゆる場所で感知する事が出来る。気候の変化で済州も海水面が毎年5.1mずつ高くなっている。1kgの牛肉を作る為には穀物20kgが消費される。豊かな国の牛肉消費の為に、貧しい人々のお皿が空になる状況だ。動物の福祉を考えない劣悪な畜産環境は、SARS、鳥インフルエンザ、エボラ等動物媒介の感染疾病を発生させる。肉類消費の増加により全世界で毎年殺される家畜の数は実に560億頭だ。2008年に発生した食料価格の暴騰は、様々な理由があるが、産業化された畜産から大量に消費される穀物飼料もその重要な理由の1つであった。

ハヌルコミュニティ農家の畜舎へ行くと、一日中歌声が聴こえる。牛に聞かせるための歌だ。厳格なハンサリム畜産の基準も徹底的に守っている。牛を閉じ込めずに開放式の飼育をしており、一頭当たり2.5坪以上の面積を確保してあげている。畜産環境管理も厳格にして糞尿の匂いが殆どしない。角を切る事もやはりしない。抗生剤と成長促進剤も一切与えない。シン代表は「動物の福祉の観点から牛を殺す前まで、最大限平穏に育てる」と話した。ハヌルコミュニティ農家達は牛に「ウスンイ」という名前も付けた。

ウスンイが住む牛舎

ウスンイが住む牛舎


シン代表が牛たちにみかんを飼料として与えている

シン代表が牛たちにみかんを飼料として与えている


シン代表は「国産飼料韓牛飼育がハヌルコミュニティだけでなく済州地域、そして全国的に広がって行けば嬉しい」と希望を口にした。来年初めに韓牛の糞尿で作った肥料のみを与えたブロッコリーも出荷される。コ・ソンボク済州大農大教授は、ハヌルコミュニティの循環農業を「トンシ農法」と呼んでいる。済州伝統農業の知恵を受け継いだ「国産飼料韓牛飼育」は、我々の農業の未来だ。

国産飼料韓牛は、脂肪率が低い。穀物飼料で育て、不飽和脂肪を最大限に増やした牛肉とは異なる。国産飼料韓牛は地球に優しいだけでなく、健康にも良い。体に悪い霜降りの状態が芸術的では無いが、味はどうだろうか。シン代表は「美味しいという評価をいただいた」と話した。私もまだ味わってみてはいないが、幼い頃に食べたあの貴重な牛肉の味ではないだろうか。
(2014.11.26)

文: パク・ジニョン/ハンサリム済州組織活動家

原文(韓国語): http://www.pressian.com/news/article.html?no=121916

翻訳:コリ・チーム(竹内未記)