4月 142016
 

2011年10月に朴元淳(パク・ウォンスン)氏がソウル特別市長に当選し、「ソンミサン・マウルのようなマウルを15つくりたい」と宣言してから、ソウルのまちづくりは大きく変化した。2014年6月に朴市長が再選をとげてからは、「住民主導」を支援する政策が強化されている。
ソウル市全体のまちづくりの責任者、ユ・チャンボク氏は、まちづくりを行政のなかから推進するために、昨年の11月からソウル市協治総括諮問官という職責に就いた。ユ・チャボク氏は、一住民としてソンミサン・マウルのマウル劇場代表を務めていたが、ソンミサン・マウルでの経験をかった朴元淳市長から強い要請を受けて、ソウル市マウル共同体総合支援センターのセンター長に就任し、ソウル市のまちづくりのために東西奔走してきた。
最新の状況について、ユ・チャンボク氏に聞いてみた。その内容を紹介したい。

ソウル市のマウル共同体事業

朴元淳市長とユ氏をはじめとしたまちづくり関係者と合意したのは「手段・方法はトップダウンで行い、ボトムアップの結果を生み出す」ということだった。そして最大の核心は「住民指導」ということだった。その合意のもとで進めた主な政策の核心は3つだ。

1)ソウル市のまちづくり事業への応募条件は、法人格の有無を問わずに住民3人以上であることを条件とする。その要綱は、根拠となる条例のなかに位置づける。
2)一般の市民が応募できるようにするために「尋ねていく相談室」を開催する。
公募への申請書の書き方などは、慣れていない一般の市民とってはハードルが高い。要請があれば、その住民のもとに出向き、書き方や、どの分野に応募をしたいかなどについて相談にのりながら申請書を完成させる。但し、代わりに申請書を書いたりはしない。
3)公募は年に1回ではなく、随時とする。
通常公募事業は1年に1回のものが多いが、「締め切り」がある場合、準備が整っていない場合でも、時間がないために応募に至ってしまう。十分な準備期間を経てから応募ができるようにする。

1つあたりの事業への助成は、100万~500万ウォンという小額でありながらも、この事業は、一般の住民がまちづくりへ関わることへ後押しをした。ユ・チャンボク氏のことばを借りるなら、事業が始まってから2年目で得た大きな成果は『住民の登場』だ。1年目の応募では、全体の85%が法人団体だったのに比べ、2年目は、85%が一般の住民だという逆転現象がその状況を物語る。

公募の審査は、公開で行われる。いくつかのチームに分けて、応募者がお互いにプレゼンを聞きながら、最後には、自分たちがいいと思った事業に一票を投じる。公開審査の審査員は、専門家50%、応募者50%という参加型審査だ。このプロセスを経ることによって、審査の場所は、「競争の場」ではなく「情報の共有とネットワークの場」へ変化するとユ・チャンボク氏は語る。ここで注目すべき点は、公募に落選したグループの存在だ。一度も落選したことのないグループよりも、審査に落ちた経験を持つグループの方が、事業内容も充実し、持続的な活動をする傾向があるという。それは、公募が随時制なので、速い時期に再チャレンジできるからだ。審査に参加しながら、ほかのグループが発表した内容からさらにアイデアやヒントを得て、ブラッシュアップした企画を練って次回に挑戦する。事業計画をつくりながらお互いの関係性が深まり、いい関係性のなかで、事業内容もはるかに充実していくのだという。

事業が始まってから2年の間、マウル共同体事業(まちづくりの事業)への参加者は、54,623人に及んだ。
seoul

「必要」が事業を生み出す「ソンミサン方式」

行政の支援のもと、ある住民グループは共同保育事業を、ある住民グループは学童保育事業を、またあるグループは高齢者のケア事業をと、生活してくなかで「必要」なことを共有しながら、事業化していっている。一人の「必要」は3人の「必要」として共有されることによって、個人的な問題から、住民グループ、地域での「必要」へと変化していく。ユ・チャンボク氏は「住民3人からの公共性」と表現しているが、「公共」は国家、行政だけの領域なのではない。「住民3人からの公共性」は「地域公共性」として発展し、「地域公共性」は地域民主主義として機能する。

ソンミサン・マウルでは、このような「必要」が、やがては共同保育、代案学校、生協、コミュニティ・カフェ、コミュニティ・レストランなどの事業を生み出している。「必要だったらつくっちゃおう」という「ソンミサン方式」が、ボトムアップの成果の一つの形だといえよう。

ソウル市には25の自治区があるが、すでに22の区には、マウル共同体の中間支援組織が誕生している。地域に密着し、より住民に近いところから支援をするためだ。中間支援組織は、行政が直接運営している場合もあれば、民間組織に委託しているところもある。その規模は、平均するとスタッフは4人から5人ぐらいと、決して大きくはない。

「マウル共同体づくり」は、「縦割り」を撤廃して「洞」を中心に

韓国の基礎自治体の下には、行政区として「洞(ドン)」が存在する。洞は人口2万~3万の区域で、この区域のなかには自治体本庁舎出張所の役割を担う洞事務所が設置されている。近年では、使われなくなった洞事務所をリノベーションして、図書館やカフェなどに再利用する取り組みなども行われているが、ソウル市では、洞事務所の責任者を、今までの公務員を配置することから公募制に転換する試みを自治区とともに始めるようになった。民間の力を地域に誘導し、官民のガバナンスを構築することに目的があるが、公務員からの反発も大きく、解決すべき課題は山積みだ。

ユ・チャンボク氏の次の仕事は「協治」(ガバナンス)構築だという。政権や自治体のトップが変わると、その影響が政策にも大きく影響する韓国では、ソウル市のマウル共同体事業も今後どうなるかは不確定な要素が大きい。政治状況が変わっても、「住民主導」が持続可能になるためには、「ソンミサン方式」が深化し、「民」の声が反映されるガバナンスが必要だ。行政の縦割りの弊害がよく言及されるが、「民」のなかでの縦割りも実は根強く残っている。官も民も含めてすべての縦割り取り払っていくことが、協治統括諮問官の役割であり、朴市長の残された任期内に一定の成果を上げていくことがミッションとなる。

慣例にとらわれず、風穴を開けていく住民目線の行政改革がどのように進められるのか、その成り行きに注目したい。 (桔川純子)