9月 292010
 

2007年7月、韓国では「社会的企業育成法」が施行されました。東アジアで初めて成立した法律であり、また日本では法制化されていないこともあり、その動向が日本でも関心を集め始めています。

この法律で「社会的企業」とは、「脆弱階層に社会サービスまたは仕事を提供し、地域住民の暮らしの質を上げるなどの社会的目的を追求しながら、財及びサービスの生産・販売などの営業活動を遂行する企業」(社会的企業育成法令2007.7)と定義されています。所定の条件を満たし、しかるべき手続き、審査を通過した事業体は「認定社会的企業」として認められるのです。経済の危機的状況にある韓国では、労働部を中心に「社会的企業」を積極的に推進しています。

「認定社会的企業」は、人件費、運営費などの補助、会計や労務などの経営面での支援があるため、市民運動陣営でも、持続可能な活動基盤をつくるために、医療生協、自活後見機関、社会福祉法人など、多様な領域にわたる団体が、「社会的企業」を目指す動きが活発化しています。

 

1990年代初め韓国では、貧民地域で建設業や縫製業を中心とする生産共同体運動が注目を浴び活発化しました。当時、地域における労働運動と、貧困に喘ぐ人々を支援する貧民運動陣営では、労働搾取をされないような労働方式と経済的な向上を模索していたからです。やがて貧困を脱するための方法として政府が注目し、1996年金泳三政権下で「自活支援センター 」が5か所設置されました。政府が介入し、制度化を試みたということです。

多くの失業者と深刻な貧困問題への対策として「公共勤労事業」、つまり公共機関が優先的に「自活支援センター」へ事業を委託するという政策がとられるようになりました。また全国的に失業克服国民運動本部を中心とした失業運動が展開されたこともあいまって、「社会的職場創出」への動きへとつながっていきます。そして、市民運動陣営の働きかけにより2000年に施行された「国民基礎生活保障法」に続き、2007年に「社会的企業育成法」が施行されました。

韓国では、「貧民運動」「失業克服国民運動」の運動の流れが、法律の制定と深く関わっていると言えるでしょう。

 

「認定社会的企業」は現在、約330団体にのぼっています。その中には、リサイクル文化を広げる「美しい店」を始め、障がいをもった人たちが作ったクッキーを販売する「We can」、低所得層の女性たちに介護士として教育を受ける機会を提供し、派遣サービスを行う「タソミ財団」、社会のなかで行き場のなくなった子どもたちに文化を通じて働く場と社会参加の機会を提供し、廃材を使った楽器のパフォーマンスを行う「ノリダン」、ロシア沿海州の高麗人に働く場を提供し、健康食品の販売をする「バリの夢」など多様なものがあります。どれも新しい試みのように見えますが、「ノリダン」も不登校の子どもたちの支援をしている「ハジャセンター」から始まった社会的企業ですし、「バリの夢」は「東北アジア平和連帯」が母体になっています。「社会的企業」の関係者と会ってみると、運動圏出身者も多く、市民団体が新しい方向性の模索している姿がこれらの動きから読み取れます。

日本でも注目されている「社会的企業育成法」ですが、一方では市民運動陣営に競争原理を持ち込み、市場至上主義を促進しているという批判もあります。「美しい店」の「メアリ」のデザイナーやスタッフたちは、「リサイクル」の意味を考えつつも、「売れる」リメイク品をつくるために、激しい議論になることも少なくないと言います。企画した製品のデザインや機能が本当に「売れる」ものなのか、しかし売れることだけを追求しすぎてはいないか,しばしば議論になるようです。公益性を追求することと利益を追求することは、どちらかに偏りすぎてもうまくはいきません。どうバランスを取っていくのか、新たな試みに挑戦している市民団体の課題であると言えるでしょう。

韓国の市民社会ではいま、未来への「変化」に向けて、さまざまな葛藤が起こっています。日本も、文化的、社会的な違いはあるものの、同じような困難や葛藤を抱えています。いま、日韓が抱えている課題を、お互いの経験や知恵を交換することによって、ともに考えていく「日韓交流」が求められている時期だと言えるでしょう。